第32話
夏休みも終わり今日から新学期がスタートする。
だから生徒が教室にいることは自然で、いないのは不自然。
でも、このクラスには2名の男子生徒が休みだ。
「もう知っている奴もいるだろうが・・・火野と佐藤は高校生の北海道代表合宿に招集されたため休みだ。」
担任の先生は2人がなぜ休みかを皆に説明をする。
そんな事はもう知っている私はため息をつく。
だが周りの生徒は騒ぎ出した。とくに女子が!
「すごいね。」
「代表?!カッコいい!」
「火野君、素敵。」
「そう?私は佐藤君の方が」
などと螢と隼人を褒めまくる女子達。
目障り&耳障りでしかたがない。
「因みに2人の写真とコメントが載っている雑誌ここに置いとくから後で見たい奴は見とけ。じゃ今日は解散。」
出て行く先生を睨んだのは言うまでもない。
ほら、雑誌には女子達が群がってキャーキャーと騒いでいる。
「奈緒、そんな、あからさまに不機嫌面してると可愛い顔が台無しだよ?」
親友の美帆は私を宥める様によしよしと頭を撫でる。
美帆さん、全く効果ありませんよ?
「まぁ撫でるのが螢じゃないと効果がないか。」
「もう!変なこと言わないでよ?!」
「ゴメンゴメン。ホントに寂しそうだね?気分はブルーってやつですか?」
「寂しくなんてない!むしろ開放感!」
「無理しちゃって。」
「してない!帰る!」
「怒んないでよ。」
廊下に出た私を美帆は笑顔で追いかけてきて横に並んだ。
「どうせ明日には帰ってくるんだから。」
「わかってるよ。」
私にとって《今日》と言うモノまでにたどり着くまでコレ程までに長いと感じることはなかったと1週間だったと思う。
校門でてすぐ美帆と別れて久しぶりに1人で歩く。
いつもなら、あっという間に家につくはずなのに今日はやけに長く感じられた。
「イヤだなぁ・・・・。」
早く明日になるば良いのに。
「あ、お姉ちゃん。」
「紫織と優君、帰りに会うなんて久しぶりだね。」
「それはそうでしょ?兄貴は部活で奈緒さんは図書室で本読んでから帰るんですから。」
「そうだねぇ。」
優君もよくここまで回復したよね。
夏休みに瞳姉さん達と沖縄に行って帰ってきた時は魂が抜けてたもの。
「じゃ俺はバイトあるんで。」
途中で優君と別れて紫織と2人きりになった。
「何年ぶりかな?紫織と一緒に帰るの。」
「小学生以来じゃないかな?中学校と高校の時から優と帰ってる気がするもん。」
「そっか・・・。もう、そんな前なんだ?」
「うん。」
そうだよね?
小学校の時は4人で通ってたけど、中学校からは気がつけば螢と2人で帰ってた。
ううん、私が2人で帰ろうとしていたし、今もしている。
本を読むのは好きだけど、放課後残っているのは一緒に帰りたいから。
「そうだ!お姉ちゃん今からケーキ食べに行かない?」
「昼間からケーキ?」
「うん♪行こう?」
私は苦笑しながら頷く。
「やった!早く早く」
「引っ張らないでよ!」
大好きなケーキを食べていても時間は長く感じられる。
やっぱり・・・・
螢がいないからかな?
そんな事を考えている私は知る由もなかった。
螢と隼人に身に起きている事を。
気がつけば外は曇が空を支配していた。
天候、
それは人間の手では変えられないものである。
「落ち着いて・・・・ね?」
「わかってる!わかってるの!」
激しく降る雨の中、走るタクシー。
車内では私が美帆を何とか落ち着かせようとしている。
「ありがとございました。」
出来るだけスピードを上げてくれた運転手さんにお礼とお金を払って、病院内に急ぎ足で入っていく。素早く階段を上って螢に言われた病室の前についた。
「美帆?」
前でドアに伸ばした手を途中で止めた美帆。
どうしたの?と言っても返事がない。
私は美帆の隣に移動し、顔をのぞき込んで驚いた。
美帆は今にも泣きそうな、そして恐れている顔をしているのだ。
私は分かった。
美帆はこのドアを開けるのが恐いんだと。
それは彼にもしもの事があったらと考えてしまったから・・・。
「大丈夫。」
美帆の伸ばした手を両手で優しく包み込むと美帆の体がビクッとした。
「大丈夫だから。」
2度目の大丈夫を言った後に手を離した。
すると美帆はゆっくりとした動作でドアを開くと・・・・。
「あれ?美帆じゃん!あ、奈緒も!」
「は?」
ベッドの上にいる元気な姿の隼人に迎えられた。
いったいコレは・・・・どういうこと?
だって・・・・あれ?
隼人が倒れたって・・・・。
「奈緒。後ろ。」
背後から誰かが小さな声で私を呼ぶ。
振り返ると廊下に左手の人差し指を立てて口の前、右手で手招きをする螢だった。
私は隼人と話している美帆に気づかれないように廊下に出る。
「ついてきて。」
久しぶりに会った彼の言われるがままついて行く。
少し離れた場所にある椅子に彼が座り、私はその隣に座った。
ひとまず。
「あれはどう言うことか説明して。隼人が倒れたんでしょ?」
そう言うと彼は苦痛な面もちになった。
そして視線は床に向けたまま
「倒れたよ。」
と呟くように言った。
「だか・・・」
だからどうして?しかも元気なの?
そう言おうとして止めた。
先程まで床に向けられていた視線は今私に向けられている。
真剣な眼差しで。
「3年前の12月21日。」
ヒュッと私が息をのむを音は雨音によってかき消された。
彼は何故今この話をしているのか理解できなかった。
私も螢も・・皆が思い出したくない記憶だから・・・・。
―――――――――――
3年前の12月21日。
俺がそう口に出すと奈緒は目を見開いた。
そして今は悲しそうな目つきで俺を見ている。
3年前の12月21日。
俺が最も思い出したくない記憶。
「最近のニュースで何があった?」
瞬時にハッと何か思い出した顔になる。
「・・・でも、そんな・・・・・。」
「合宿先でそれを見た隼人は昔と被って狂いだした。っで最後は意識無くした。」
誰もが傷ついた。
そして、あの日誰よりも心に傷を受けた隼人と彼奴。
俺達がまだ8人だった頃。
「隼人は・・・?」
「なに?」
「隼人は大丈夫なの?」
『大丈夫だと言っておいてくれな。じゃないと俺また皆に迷惑かけちまう。』
数分前の隼人の言葉が俺の頭に響く。
「大丈夫。」
『それに──』
続きがまた頭に響いた。
「よかった。」
目尻に涙を溜めた奈緒は微笑みを浮かべる
「ただそれが原因で倒れた事は美帆には言わないでくれ。」
「何で?」
「言ったら美帆のヤツ錯乱する。奈緒が1番・・・・いや2番目にわかるだろ?」
因みに1番は隼人なと言ってなんとか笑顔を作って見せた。
「そうだね。」
「うん、実はこれ隼人から俺と奈緒へのお願いなんだ。」
とうとう声を殺して泣き出した奈緒の体を俺は抱きしめる。
大丈夫・・・・そんわけない。
奈緒許してくれ。
美帆も許してくれ。
俺の・・・・。
俺達の嘘を。
『それに今度倒れたら2度と意識が戻らないかもしれないなんて言えないさ。』
近日、新キャラ登場予定。さらに螢と隼人に美帆の出会い、そして皆が傷を負ったワケを書いていきたいと思います。