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第30話

家に到着すると誰もいなかった。

たぶん買い物だろう。

案の定、10分も経たない内に2人は帰宅した。

そして奈緒の帰宅してからの開口一番が『祭りに行こう!』であった。

その時見た輝かしい天使のスマイル相手に俺は断る気もなくて今に至る。


「螢!アレしよ!?ア・レ♪」

テンション高めな奈緒の指の先には祭りの定番である金魚すくいがあった。


「駄目だ。今はタク兄の家にいるんだから。」


「うぅ・・・あ!アレは?」


次はダーツですか・・・。


「アレならOK。」


「やったぁ♪早く行こう?」


「おいおい。」


俺の手を取り、グイグイと前に引っ張る奈緒に俺は苦笑してしまった。




「そろそろ時間だぞ?」


「あ、ホントだ。」


打ち上げ花火は一緒に見ようと言う薫姉の提案により少し離れた場所にある丘の上に7時50分集合。

現在7時20分。


「うんじゃ一先ず此処から出るべ?」




「うん。」


出口は3カ所ある内の俺達にもっとも近い南口から出て丘を目指した。

までは良かった。

皆さんもご存じの通り此処はタク兄達の住む地元。

余所者の俺達がこの辺りを知り尽くしている事などあるはずがない。


「此処はどこ??私は」


「必要のないボケは止めれ!道に迷ってんだぞ?」


のほほんとしている奈緒は不満げになる。

俺は正論を言ったつもりですが?


「う〜ん・・・・。」


考えろ。

どうすれば良いのか考えるんだ螢。

周囲に人影はなし。

さてどうする??


「さて悩んでいる螢さんに問題です。アナタの左ポッケには何が入っているでしょう?」


「は?」


左ポッケ??



あ。


「正解は携帯電話でした。」


「その手があったな・・・んじゃ早速電話するべ。」


《プルルル、プルルル》


「・・・・。」


《プルルル、プルルル》


「・・・・。」




《プルルル、プルルル》


まさか・・・。


《ブッ・・・こちらは》


女の人の声を聞いたとたんに俺は電源ボタンを押した。




終わった・・・・。


「もしもし、お姉ちゃん?実は道に迷っちゃって。」


お姉ちゃん??

道に迷って???


「螢、こっちだよ。」


「あ?あぁ。」


前を歩く奈緒の手には携帯電話が握られていた。

そうか、薫姉か。


「この坂登りきったら到着であります。」


「よろしい。では参るぞ?」


始めは2人共にゆっくりと歩いていたが、だんだんと横の相手より先に行こうとし・・・・。


「あ、走るのずりーぞ!?」


「悔しかったら私を抜いてみれば??」


走り出した。


「ふっ。」


「え!?ちょ・・早いよ!って待ってよぉ―――!!」



先程まで前を走っていた奈緒は今、俺の後方を走っている。

そして叫んでもいる。

その声に反応して振り向く。


待てと言われて・・・・。

やめれ・・・・その潤んだ瞳で俺を見るな。

わかったから。

結局待つ羽目になった。


「もう!私はアンタみたいく化け物じゃないんだから、少しはゆっくり走ってよ!」


「誰が化け物だ!?俺はいたって普通の学生だ。」


「グラウンドを全速力で15周走った人が言う台詞じゃないよ。」


「隼人だって走ってたじゃん。」


「それは隼人も化け物だからに決まって・・・・あれ?」


「どうした??」


俺の質問など無視をし、周囲をキョロキョロ見だした。

あれ?

ここは・・・・いつの間にやら頂上ではないか。


「お姉ちゃん達がいない。」


「・・・・・・。」


俺も周囲を見てみる。

タク兄達がいないどころか誰もいない。

なんで?!


「電話してみるか??」


「・・・・その必要はないみたい。お姉ちゃんからメールが着てた。」


「なんて??」


あ、目を逸らされた。

え?

なに??

この気まずい雰囲気は?


「お、女同士の秘密。」


なんじゃそりゃ?!


《ヒュルルル・・・・ドォン!》


「「あ。」」


打ち上げ花火が始まった。

色とりどりの花が綺麗に咲き、夜空を照らす。

つい1週間前にも祭りで上がっていたよな。

あの時は隼人と馬鹿やって見ていなかった。

ん??

奈緒が静かだ。


「あ・・・・。」


よく男が何か綺麗なものを見た後に恋人や気のある人に向かって『君の方が綺麗だよ。』等とアホのような言葉を発していたりするが俺はどうやら奈緒に似たような台詞を言いそうだ。



しばらく花火から視線を奈緒に移すことにした。

見られている本人は俺の視線に全く気づいていない。


「・・・・ん?」


やっと視線に気づいたのか、こっに顔を向け俺と目があった。

そして笑顔で俺を見てくる。

俺もつられて笑顔になる。

花火で輝く瞳とその笑顔。

俺は言いたい。

言いたいんだ

でもまだ・・・・。

あと少しだけ『幼馴染』のポジションにいさせてくれ。



「奈緒。」


「なぁに?」


「これ」


俺の手のひらにはさっき買ったプレゼントがある。


「え?なにそれ??」


「ん、この間俺が倒れた時に助けてくれたお礼。」


「そそそんなの・・・何か悪いよ。」


「いいから、受け取ってくれ。」


半ば押し付ける感じで奈緒に渡す。

1度俯いて再び顔を上げた時の彼女の顔はさっきよりも輝いて見えた。


「開けてみてもいいかな?」


「ここでか?」


「うん。ダメかな?」


俺は苦笑しながら首を横に振り夜空に咲き続けている花に目を向けた。

気に入ってくれると良いな。

そんな事を思いながら。


「螢」


「あいよ。」


幸せそうに笑う奈緒の胸元にはハートが2つあった。


「これ可愛い。ありがとう、大事にするから。」


「おう。」


それからまた視線を夜空に向けた。

あと1ヶ月以内に。

そう心で呟きながら。

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