天啓
「どうして、姿が・・・・・・それに、喋り方も・・・」
「ぼくは、選んだ王と意識を同調させその王に合った姿に変わる。其方ほど若い王を選んだのは初めてだったが、なるほど。同じくらいの年頃のようだな。 姿が変われば、言葉遣いも変わる。当然だろう」
当然、と言い切るシャマンに、藍宇は返す言葉もない。
普通の人間は、急に姿が変わることなど無いから分からないが、そういうものなのだろうか。
「さっきまでの姿には、戻れないの?」
「無理だ。もう其方と同調してしまったからな。 なんだ?老人の方が好みだったか?」
「好みとかそんな問題じゃないでしょ。 だって、シャマンが、シャマンじゃなくなったって事に・・・」
「ああ、心配するな。 シャマンは、常に王と対として選ばれる・・・事になっている。 王が崩御した後、神官長であるシャマンが“占”を通し託宣を受け次の王を告知する。それを以てシャマンは役割を終える。 次のシャマンが同様に選ばれ、王のシャマンとして神官長の座につく。という仕組みだ」
まぁ、結局はぼくなのだがな。と、淡々とシャマンはそう説明した。
「この事を知るのは、其方を含め歴代の王だけだ。 分かるな?」
「・・・はい」
「結構。 では改めて藍宇よ、其方に天啓を授ける」
そう言って、シャマンは右手のひらを上にし、藍宇に向かって差し出した。すると、その手の上に胡桃程の大きさをした玉が現れた。
金色に光ったかと思えば、水色になったようにも見える、なんとも神秘的な玉であった。
「綺麗・・・これは?」
「これは、龍玉。元々は、ぼくの眼の一つだった。 これを、其方の眼に埋め込む。 いいか?この玉を見ていろ」
龍玉と呼ばれた玉を見つめる。シャマンはそれを藍宇の右目に宛てると、龍玉はそのまま右目に吸い込まれていった。
それとともに、右目から激しい痛みと熱さが走る。
「・・・あっ!!!」
たまらず両手で目を押さえしゃがみこんだが、次の瞬間には痛みと熱は消え、同時にその目から藍宇の脳内に膨大な情報量が流れ込んできた。
それは、泉台国のこれまでの王の記憶そのものであった。
そして、藍宇は全てを理解したのだ。
「守護神 皇帝黄龍の神勅の下に、泉台国国王 藍の即位をここに宣言する」
神殿の広間に、神官長 シャマンの声が高く響きわたった。
巫女の一人が、冠を載せた盆を自分の目線と同じくらいまで高く持ち、シャマンの傍へ静かに進んできた。その冠をシャマンが手に取る。
そして、伏せ目がちに跪いている藍宇の頭上へと王冠を厳かに載せた。
泉台国史上唯一の女王、藍王の誕生であった。
神殿の外から、新王の姿を一目見ようと集まった国民たちの声が、ざわめきとなって聞こえてくる。
「藍王陛下。民が陛下のご尊顔を拝見できる時を今か今かと待ち望んでおられますよ」
「ええ」
王として最初の役目である国民への披露目を行うため、シャマンと共に神殿の露台へと足を進める。
強い日差しに、一瞬目がくらむ。
しかし、直ぐに明るさにも慣れた目の前には、これから藍宇が治めていく国、泉台国の大地と、幾千幾万もの民の姿があった。
露台の先に立ち、民へ向かって手を振ると、たちまち民の間から大きな歓声が上がる。
こうして、数奇な運命を背負い、貧民から女王となった少女、藍王の御世が始まったのであった。