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1話 始まり


冒険者ギルド

ここはそう言われている。

木造の古びた家。

初期の初期である戦士の祝福を受ける場所だ。


ご覧の通り俺は駆け出しだ。

あと数分後に冒険者になる予定のペーペー中のペーペーだ。世界中の人々の憧れである三宮殿には、まだまだ挑めないような、いわゆる雑魚であった。

こんな俺みたいな奴らは全員フィールド行き確定で拒否権はおろか希望者もいなかった。


俺もそうなのだが、目の前の奴は違うようだ。

「俺は三宮殿に直ぐにでも行ってやる!」

鼻息を荒く闘志を燃やし、ジョッキを片手に酒を煽っているのは、幼馴染であるブラークトンだった。

俺はそいつに対して今日何度ついたかもわからない溜息をついた。


「あのな。だから無理だって。人間下積みが必要なんだよ。これ絶対条件だから」

「カー!夢がねぇ!お前はそんなだから女も出来ずに今この時を俺と過ごしてるんだよ!」

「それはお前もじゃないか」

俺は言いながら反目で目の前の飲み物を啜った。


目の前のブラークトンはまだ納得がいかないのか、もう一度酒を煽ってこちらに身を乗り出した。

「だからこそだろうが!女にモテるためにも!ハーレムを実現させるためにも!そして、ちやほやされるためにも!俺達には蒼穹!迷宮!地下ダンジョンの宮名とボス名の入ったカードが必要なんだよ」

俺はブラークトンの言葉に少し動揺する。


「は、ハーレム」

「おやぁ?」

しかし、ブラークトンのニヤケ顔を見て直ぐに顔を引き締めた。

「とにかく地道に行かないと手に入る物も手に入らないし、ヘマをして同期の奴らから遅れを。最悪の場合死んじゃうよ」


俺の冷静な言葉にブラークトンは言葉を詰まらせた。

しかし、まだこいつは納得がいかない。

何故だ。その燃え滾る闘志を一回鎮火させろよ。

「いや、しかぁし!」

ダメだ。俺が鎮火させるしかない。


まだまだ止まりそうにないブラークトンを見て俺は椅子から立ち上がった。

「お前が言ったのは最上級も最上級!本当にトップクラスのカードじゃないか。そんなカードは駆け出しの俺達には取れません!」

「何だよ。いいじゃねーか。言うだけならタダだろ」

そう言いながら愚痴り始めるブラークトン。

「結構本気だったくせに」

「へんっ」


完全に拗ねてしまったブラークトン。

俺はやれやれと肩を竦めた。

「俺は先に冒険者登録しちまうからな」

それだけ言うと、俺はこの酒臭くやかましい酒場の奥へと進んだ。

すると、受付嬢が察したのか、誘導してくれた。


「冒険者登録ですね。おめでとうございます。トレジャーハンターになるか。ギルド構成員になるか。王国に仕える騎士になるか。これからの運命を決めるのは貴方次第です。では、こちらへ」

案内されたのは神秘的な一室。

先ほどのやかましさなど嘘のように静かで部屋の中央には台座と半透明の球体が置いてあった。

「そこの球体に手を置いて目を閉じて下さい」

「はい」


俺は言われた通りに手を置いて目を閉じた。


すると、真っ暗なはずなのに白く光る文字が浮かび上がった。

文字を見た瞬間やり方がどんどん脳に刷り込まれていく。

俺はその誘導に従った。

まず選ぶらしい。力・防御・魔法・魔法防御・速さ・賢さの中から自分のタイプ。


つまりこの半透明の球体が俺の能力の底上げを一つだけしてくれるらしい。

俺は迷わずに選んだ。

それはスピードだ。

パワーや魔法を選んだ方がいいのかもしれない。そう思うが、この世界では大切なことがある。

それは、ラストアタックの重要性。


ラストアタックを決めた者は、人より多くの経験値を手に入れ、報酬である素材と、運が良ければ『カード』を手に入れることが出来る。

このラストアタックが原因で仲間同士の殺し合いに発展する事なんかもあるが、それはまた別の話だ。

それにモンスターに逃げられる可能性も減るのだ。

俺は元々このステータス向上以外眼中になかった。


そして、文字は次の選択肢を俺に迫った。

しかし、選択肢はまた似たようなものだった。

先ほどの項目が並ぶ。

それでも俺は迷う事がなかった。

また俺は速度を押した。


『ステップ・アクセル』を獲得しました。

予め説明を受けていた。

ステータス向上の後は、カード選びだと。

カードとはスキルであり、人から奪えない絶対的な努力が必要な神秘的な物だ。


そして、それを手に入れるために沢山の人間がフィールド。蒼穹。迷宮。地下ダンジョンで汗や血を流す。

そのサポートとしてカードの初歩中の初歩が手に入るというわけだ。

確か、ここでは三枚のカードが引けるはずだ。

俺はもう一度速度を押した。


『エアリアル・アクセル』

よし。運が良かった。

このカードは必ず違うものが出るとは限らない。

サポートでも当然のようにダブりが出てくる。

そのダブりを避ける為に大体の人は均等に欲しいタイプのカードを一つずつ選んでいく。

俺は次のカードを選んだ。


「最後は」

最後は戦闘に絶対的に必要な攻撃力だ。

と、言いたいところだが、俺は今見えている文字とは関係のない端を叩いた。

すると、目の前には違う文字が浮かんだ。

そこには鑑定が浮かんでいた。


俺は迷わずに鑑定ボタンを押した。

『鑑定』

「わすれなくてよかった」

どんな武器を持ってもパワーアップしてくれる純粋なステータス底上げがほしかったりもした。しかし、この鑑定スキルはそれをも凌駕する性能を秘めている。手に入れたアイテムがどういう物かがわかるのが強すぎる。


スピードを減らせばいいかもしれないが、譲る事は出来なかった。

こうなるともう職業の選択肢はなくなってしまう。

そう。難易度の低い剣士だ。

これならば俺でも簡単に扱える。一定の攻撃力を確保出来て、その上扱いやすい。

完璧だ。


俺は、パパッと職業を選び、武器をもらい部屋を出た。

「貴方に幸運の導きがあらんことを」

さて。これからブラークトンを待つんだが、どうしようかな。

俺はギルドを出た。

ギルドは町の丘の上にあり、ここから小さな町並みを見ることが出来る。


出口から続いている石畳。

俺はそこから外れたならされていない土の道を歩いて近くの木壁に空いている小さな穴を潜った。

後ろの方にあるギルドからぶつくさ何かをほざいていたブラークトンが出てくるのはまだまだ先だろう。


そうなれば、何をするかは決まりだ。

一刻も早く強くなる為に一足先に近くの狩場でモンスターを駆ろう。

そう思いながら俺は一人で町を離れて近くの森に入った。

森まではそう遠くはなかった。

初心者の出口は決まってここだからだ。

この町の出口は四つあるが、それぞれの出口で難易度が変わってくる。


まず先に行くべきは俺が今いる場所である森だ。

目の前には静かにしなる木々が立ち並んでおり、道は一本しかない。

左右は木々の密度が高く影が差しており、まるでここから先は闇の一歩だと言わんばかりの迫力だ。

しかし、そんな事はない。

この森の難易度は一緒である。


俺は森に入るなり、周囲を見渡した。

辺りには何も見当たらない。

それはそうだ。入口だもの。町に一番近いこんな場所にモンスターが現れるはずもない。

こういう時は……。

俺は落ちている葉を拾い上げた。

でもこれは違う。

もう一つ拾う。


これも違う。周囲を見る。ここには無いようだ。

俺は次に深く影を落としている木々の隙間に入っていった。

そこで目を凝らしてみると……。

あった。雑草だ。


ひらひらと微風にすら揺らされている姿を見つけた。

それを引き抜くと、元の通りに出て俺は草に指を這わせてピンと立たせた。

数秒すると草はヘタれる。

俺はこれを何度か繰り返した。

もう7回目だろうか。正直飽きてうんざりしたそんな時、風が吹いた。

俺は草が倒れた方向に向けて走り出した。



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