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10話 鹿に叱られ牢屋へGO!

奴隷から解放されてルーレシアにさらなる明るさが戻り、俺達は鹿の像の隣の隠し通路から再び歩き出した。

ぶっちゃけその間に会話はなかった。

そうだよね。まだあったばかりだもんね。

会話なんてポンポン湧いてくる性格でもないですし。

だから、この歩いている間に俺はケリュネイアの事を考えていた。

人間の俺とこんな会話をしてくれる半魔はルーレシアだけかもしれない。


だってそうだろ。半魔の一族は全て奴隷対象なのだから。

人間なんて嫌悪感を抱いて当然の存在なんだ。

もしかしたらいきなり襲われる可能性だってある。

その時はどうすればいい。切る?いや、それは出来ない。

逃げるしかないだろう。と、そんな綺麗言を言っていてもいざ身の危険が強敵が前に立てば俺はそいつを殺すだろうな。


それは人間相手でも同じなんだ。

でも嫌だな。何の為に守ってここまで来たのかそれじゃあわからなくなる。

俺がそんな事を考えていると、ルーレシアは不安そうに顔を除いてきた。

「そんな不安そうな顔をしないでください。大丈夫ですから」

あれこれ考えて一時間が経過していたのかもしれない。

もう景色が変わっていた。


周囲は光り輝く洞窟へと変わっていた。

もう狭い道とかではなく随分と広い道だ。

あちらこちらにモンスターがいる。

時折ルーレシアの近くに行って彼女がそのモンスターの頭をなでたりもしている。

心配事だったとはいえ、考え過ぎたのだろうか。


「すまん。ありがとう」

「礼を言うのは私の方です」

「俺は何もしていないよ。鎧も返さなくちゃな。こんな役立たずじゃあ」

彼女は首を振った。そして、淡く光る虎のモンスターから果物を受け取りこちらに渡して来た。

「その虎は?」


「ケリュネイアに仕える幻獣です。とても可愛いんですよ」

いや、凶暴ですけど?軽く俺睨まれてるし。

しかし、否定するのも何か違うと思い俺はとりあえず頷いた。

「そうだな」

「アロンさん。貴方にお話があります」


彼女は不安げに瞳を揺らしながらこちらを見た。

真剣な瞳だ。

何かを背負っている表情をしている。

こちらが先を促すと、彼女はポツリポツリと話し始めた。

先ほどは愛想で大丈夫と言ったが、まず大丈夫ではなく牢屋に入れられると。


しかし、そこで待っていてほしいと。

次にケリュネイアの装備は何があっても渡すなと。

俺が待っている間にルーレシアが民を落ち着けて話をつけると。

前王は死に今王位を持っているのは生き残ったルーレシアだけ。

そして、ここからが本番らしい。

ルーレシアは民を落ち着ける。その次に俺に国。グラシアスに取り次いでほしいと言ってきた。


俺がどこかの良家の家柄だと踏んだらしい。

ここで彼女は詳しい事は言わなかった。まぁ名前でわかるだろうな普通。

何を伝えたいかというと、グラシアスへの移民を許可してほしいとのことだ。

この先ケリュネイアだけでは他国に対応することはできない。

だから、滅びる前に移民したいのだと。

何故移民か。


それは前王からグラシアスの事を聞いていたらしいからだ。

グラシアスは唯一奴隷制度を撤廃し、半魔と共存する国だと。

だからグラシアスの民になりたいと。

俺はそれに了承した。

したんだが、事が事だ。緊張はどうしてもしてしまう。

いくら作戦とはいえ拷問されるかもしれない。


さすがに奴隷の刻印はされたくないぞ。解除するにはその場所に行かなくてはいけないし、面倒くさい。

そんな事はないだろうと願いつつ、とうとうついてしまった。

ケリュネイアの国に。

目の前には美しい門がある。

豪奢で淡い光を放った幻想的な門だ。

門の中央にはケリュネイアの特徴である鹿の紋章がある。


そして、その付近には十数人の兵士がいて、まぁそりゃあ厳重にもなるわな。

彼らは姫であるルーレシアの無事を確認すると、まず喜びに頬を緩め、次に憤怒の表情を浮かべた。

変なのはそこからだった。何故なら兵士全員に黒い靄が付きまとい始めたから。そして、それは感情の起伏と共に膨れ上がっていった。

「貴様は人間だな。ここから先、生かしておくわけにはいかない!姫様を解放しろ!」

突然に怒鳴り始めるケリュネイアの兵。


しかもそれは一人や二人ではない。

全兵士だ。

次に笛が鳴らされ、門の奥が騒然とし始める。

あぁ、予想はしていたけど本当にぞろぞろと出てくるな。

黒い靄がどんどんと大きくなって増えていく。まるで漏れている様だ。

しかし、ルーレシアの指示がある。俺が計画通り黙って見ていると、ルーレシアが一歩前に出る。

彼女は気づいて無いようだ。


「静まりなさい。彼は私を奴隷から解放してくれたケリュネイアの騎士です。彼への狼藉は許しません」

彼女は先ほどの少女然とした姿を脱ぎ捨てて今は王女の品格を持っている。

その切り替えに俺は少し驚き感心した。

しかし、彼女の頑張りも虚しく俺の周囲を兵隊が囲み、暴れるルーレシアは手が取られて問答無用で門の奥へと運ばれて行った。

そいつも黒い靄が漏れている。

ルーレシアと他の全兵士を見比べても。魔力の波長の種類が全く違う。

まるで別の種族のような、そんな気さえ覚えてしまう。


「いくら姫様の命令といえど人間に容赦をする事は出来ません。忘れたわけではありますまい。人間が我々に何をしてきたのかを」

渋い声が聞こえた。半魔だらけでもうルーレシアは見えない。少し奥の方で話している様だ。

「騎士団長!しかし、我々は今こそ向き合わなくてはならないのです!話の通じる賢き相手と!」

「それが奴だというのですか!」


騎士団長と言われた男の声が強くなる。

しかし、ルーレシアも負けてはいなかった。

「そうです!グラシアス帝国の皇子であるアロン・グラシアスと対話するのです!この機会はケリュネイアの未来が祝福されている証拠。どんな結果であろうと彼と対話をしてグラシアスの移民を滅びる前に完了させる必要があるのです!」

「世迷言を!どうやって人間を信じろというのですか!」

二人は叫びながら遠ざかっていった。

そして、俺は牢屋に繋がれた。

乱暴されることは一切なかった。


グラシアスとの戦争を恐れての事だろう。

それにしても暇だなぁ。

これから何日もここでグダグダしてなきゃいけないのか。

それは嫌だな。

しかし、俺はここで閃いた。

そうだ。見張り兵の巡回時間を観察してどうやってか抜け出そう。

俺は俺。ルーレシアはルーレシアがそれぞれ動き出した。

ただ、引っかかる事があると言えば、黒い靄の謎だけだった。

あれは何なんだろう。

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