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9話 解放された姫

三分経った頃。俺の心はとても穏やかだった。

何故なら可愛い女の子が袖にくっ付いているのだから。

後ろを向けばチャームポイントの鹿角にピンクのロングヘアー。整った顔立ち。碧眼。加えて露出の多い衣服。


そう。奴隷だったから服がボロボロなのだ。

やましい心がゼロでない状態でもこの状態は頂けないだろう。

そもそも俺は半魔に差別的な気持ちを持っていない。

だからそんな姿にしておくのは目の保養になっても罪悪感がグサグサと突き刺してくるわけで。しかもモンスターに囲まれて彼女が攻撃されたらヒラヒラボロボロでは耐えられないわけで。


そんなわけで俺はその場で止まった。

所持品を弄って変更し、ケリュネイアの鎧を彼女の手渡した。

「えっ?」

「不安そうにしないでよ。その恰好じゃあモンスターの攻撃には耐えられないだろ」

そう。絶対に耐えられない。今はそう予想しておく。

出ないと最悪の可能性にたどり着く可能性がある。

用心するに越したことはない。


そうじゃないと、公開するかもしれないのか。

「でも」

「いいから」

だから俺は渋る彼女に鎧を押し付けた。

しかし……。

「できませんケリュネイアの掟です。この鎧は騎士にしか着用が許されないのです」

押し返されてしまった。

困った。これは困った。

どうしよう。

俺はとりあえず以前来ていた初心者用の服を取り出して渡した。


「これならどう?」

「あぁ、これなら」

ルーレシアは受け取ると同時に服を鼻に近づけた。

えっ?

「そこで嗅ぐの?」

「確認です」

えっ?何の?

不思議な事を言うルーレシア。


これは果たして冗談なんだろうか。でも出会った頃の辛そうな表情も少し和らいだかもしれない。

直ぐにじゃなくても少しずつほぐせばいい。

自分の心の整え方をルーレシアは知っているんだろう。

他人に迷惑を掛けずに周囲を明るくする努力で周囲と一緒に楽しくなるとか?

本当に姫様なのだな。


そう言えば、姉上や兄上達もそんな人だったな。

俺だけはひたすら家出したり抜け出したり迷惑かけてたっけ。

じゃあ彼女を明るくする事で少しはらしくなるか?

いや、なるつもりなんてない。

どうしてこう思うのか。

本当に笑ってほしいからか。


俺も挑戦が必要なのかもしれない。

あぁ、ダメだ。ブラークトンと友人なせいで下品な事しか思いつかない。

「黄ばんでたらごめんな」

「マーキングですか」

「あぁ、俺が悪かった。黄ばんでないと思うから探さないでくれ」

さっきの考えは撤回しよう。

この人マジな姿勢で確認してる。傷つくわ。

強いのかもしれないこのお姫様は。


匂いの確認が終わると、彼女は服を着だした。

恐らくルーレシアは次の瞬間に所持品を開いて装備変換を追えるだろう。

えぇ、そう思っていた時期がありました。

ブラークトンといた時の癖で俺は装備変更で光る体のシルエットを見ようとしたら……。

生着替えですか……嘘だろ?所持品はないのか?いや、回復アイテム出せるくらいだからあり、なら変換できるはずだ。


姫や高位に着いている者でなくともそれくらいは出来る。

それなのに何故?

仕方ない。着替えが終わったら確認しよう。

目の前のルーレシアは、まず先に奴隷装束であるボロ服を脱いでいた。

女性用ではワンピースのような形でそれを脱いだらスッポンポンだった。

胸はかなり大きい。スタイルはかなりいいようです。

肌は白い。しかし、体毛はない。そして、彼女に恥じらう様子もない。ただし、尻尾はある。頂けないのは背中に大きく書かれた奴隷の刻印だけだ。これを一刻も早く俺は消さないといけない。


ルーレシアはパッパと着替えていき、あっという間に完了した。

「お待たせしました」

「あぁ、うん。行こうか」

何故自然に振る舞えるんだろうか?

もしかして見てるの気づいてなかったの?

俺が不思議そうにしていると、彼女は小さく笑った。

「奴隷の服を所持品に入れたくなかったんです。そして、奴隷の服を脱ぎ捨てるところ。解放に一歩前進した姿を見てほしかったんです」

「そっか」


それから、二人は会話もなく道なりに進んだ。

もう歩き始めてから二時間たった。

そんな時に俺は不思議に思った。何故モンスターが出てこないのか。

加えてルーレシアは警戒する事すらしない。

しかも、時々近くの花のにおいを嗅いだり果物を手に取ったりとチョロチョロしている。


俺は我慢できずに問いかけた。

「モンスターは出ないのか?どのくらいで出現できるか予想できる?」

「この洞窟の名前はケリュネイアの洞窟と言われています。ここではケリュネイアの者は守られるのです。もし、私が先に走っていたら魔物の襲撃を受けていたでしょうね。だから、入り口で待っていたのもあります。貴方はとても強そうでしたし、逃げても無駄だと思ったから掛けてみたんです。あの時の戸惑いに満ちた優しい心に。ちょっとエッチですけどね。あの迷いない覗きには胸がドキドキしました」


俺は最後の言葉をあえてスルーした。

運が良かった。ここで掘り下げられたら困る。

俺は今見えて来た光りが差し込んでいる出口を指さした。

「ケリュネイアは森の加護を受けているのだな。ほら、出口が見えて来たぞ」

「あぁ、あれはトラップです。あの中に入ってしまったら終わりです。気づいた時には落下して串刺しになってますからね」

「そうなのか」


ルーレシアはそう言うとゆっくりと俺を先導してくれた。

光の穴を通らずに彼女はその手前の壁に手を当てた。

すると、ゆっくりと壁から通路が現れて俺達はそこを通った。

そのまま歩いているのだが、おかしい。

大体の女性は先ほどのように掘り返したら延々と弄ってくるのに彼女にはそれがない。


それどころか何事もなかったかのようにニコニコしている。

これがデカい器というものだろうか。

とりあえず彼女の揺れる胸を拝んでおいて。

「触れないであげますから、やめてください」

「はい」

また一時間ほど歩く。

すると、行き止まりの通路があり、そこに鹿の像がはめ込まれた壁があった。

見るからに何かありそうな感じだ。

蒼穹での奴とは違う。何故ならこいつは光り輝いているから。


「ここか?」

「はい。少し待っていてください」

確か奴隷解除は一人でもできる。強く念じる事が大事だそうだ。

つーか、モンスターが出ない以上盗賊から守るのが俺の仕事なはずだ。

しかし、それもなかった。何の役にも立ってないじゃないか。

俺は目の前で鹿の像に手を当てている彼女の横に立って倣うように手を置いた。


「二人でやった方が早いかもね」

「えぇっと。吊り橋効果でも狙ってますか?」

「素直に捉えてほしいな。裸で付き合った仲じゃないか」

「いいえ。違います」

無駄話をしていた次の瞬間、石造が放つ包まれた。

光が消えると、またルーレシアは服を脱いだ。今度は背中を向けている。

「どうですか?」


そこにあるのは、綺麗な白い肌だけだった。

忌々しい奴隷の刻印はそこにはない。

「あぁ、ないよ。凄く綺麗だ」

そう言って俺は思わずルーレシアの背中に手を這わせた。

ビクッと彼女は身を震わせて少し可笑しそうに言った。


「今回だけですよ。さぁ、ケリュネイアの国に行きましょう」



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