プロローグ2 昔、憧れた者
ー…シルベットに憧れ、『あの日』から10年が経つ。私ユミィ・リア・モーガンは、17才になった。
剣と魔法と機械が交差する
この世界ー…『アレッシィ』。
砂浜の砂のようにある数多の世界は、『アレッシィ』を、世界の中心とした。
そんな世界アレッシィに、この国は存在する。
レイーシェル国
それが、この国の名前だ。緑豊かで、エメラルドグリーンの美しい海。
見渡すかぎり青々としげる草原に立つユミィは、振り返る。雲1つない美しい青空、その下に高くそびえ経つ城…私が育ったエルミア城。それが、この街のーー…嫌、すべての人が暮らす国の特徴だろう。
…ちなみに、私はこの国の王の姪姫だ。本来なら、王室に居なくてはならない存在。
それがなぜ、王家の者が外に出ているかというと…。簡単に言うと、王室を出た長男と一般人の娘の子供…それが私。悪天候の川の中から、幼少期の私をかばって死んでしまった父親。その事で母親は狂い、私を虐待をした。
だか、従姉妹の母親〔父親の姉]と叔父上〔父親の弟]にバレて、王室に引き取られ、それからずっとエルミア城に住んでいた。引き取られた後は、何をしてても楽しかった。
ただし…それは、1年前の“あの事件”が起きるまでの話。
その事件が起きた後、叔父上に止められたが、やっぱり自分の事が許せず王室を出て来てしまった。
…そんなこんなで、現在に至る。
*…*…*…*…*
…ーーなどと、昔の思い出が、脳裏に浮かんでは消えて行く。まるで、シャボン玉みたいに。思い出した所で、何も役立たないのに。
不意に、吹き抜ける風が、白みを帯びた淡黄金色の長髪を揺らす。
血のような美しい赤い瞳。その色に馴染む薄桃色の膝丈ワンピースの裾が、風に吹かれる。とても、綺麗で整った顔立ち。…レーシェの血筋とのハーフだからだろう。神話に出てきそうな美人。
レーシェとは、遥か昔に“世界”を創造し、この国を立てた神々の血を引く子孫。
唯一「『詠』魔法」を扱える数少ない種族で、年齢が16才頃止まり、約1000年も生きる。と、言われる者。
ユミィは、そのひとり。だからだろうか。神秘的な美しさ。
ふと、そんな彼女は遥か遠くにある城をじっと見つめる。
数分して、城に背を向け、
彼女は歩き出した。
*…*…*…*…*
それから、2時間後。
レイーシェル国内、
都市より北にある街「サフラン」。
国内で一番冬場が寒い有名地で、レイーシェル国の伝統を色濃く残る場所。
その街の駅前にあるホテルの一室。
「…疲れた」
帰るなり颯爽と、ベッドに転がるユミィ。
『おかえり、ユミィ。戻ってきて早速なんだけど、ミカエル教官から連絡あったよ。「早く来い」だって』
可愛らしい少年の声が、ベージュ色のソファーから聞こえる。
「うん、分かった。ありがとう、ソフラ」
ソフラ。
人工知能型端末機が内臓され、人と同じように話す不思議な生物…らしい。詳しい事は知らないが。手のひらサイズの白いウサギ。否、ウサギのようで、ウサギじゃない。“不思議の国”に出てきそうな可愛らしいぬいぐるみみたい。
「もう嫌だっ!!仕事、多すぎっ!!」
ソフラに当たるつもりはないが、
当たってしまう。
『しょうがないよ。終わったら、ゆっくり寝てられるよ』
「それは、そうだけど…」
だだをこねる子供のようなユミィ、それを抑える親のようなソフラ。
「ごめん、当たって。でも、言いたくなっちゃって」
『いいよ。それにしても、毎日大変だね。また、土日も仕事ばっかり。身体、持つ?』
厳しいすぎる仕事モードの声ではなく、通常モードの優しい声。この声を聞くと、ホッとする。可愛い、本人は気になってる所。笑うと、怒られる。だから、気付かれないようにそっと微笑む。
「うん、大丈夫」
何もなかったように、ボソッとつぶやいた。毛布を、頭から被る。優しい石鹸の香りと柔らかさに、包まれる。それだけで、幸せな気持ちになる。ホカホカして暖かい。
だが、その一時の幸せが、ある不安の一色に染まる。
一気に、心が寒くなった気がする。
「ねぇ、ソフラ」
『どうしたの?』
この仕事に就職した時からの、疑問。
嫌、個人的な感情の問題。誰にも言えず抱えこんでいる悩み。
「私は、TMSGに向いてないのかな。だって、TMSGは自分の命を捨ててまで、赤の他人を助けなきゃならないでしょ?でも、もし私がいなくなったら…。従姉妹〔いとこ〕は、あの子は、どうなるのかな?」
私は、あの子と叔父である王しか家族はいない。数少ない家族、だからこそ、家族を取られたくない。あの子を取られたくない。
変人なのかもしれない。だけど…。
『「TMSG」として、赤の他人を助けなくてはならない。だけど、家族も守りたい…2つの心の問題』
「心…か」
ゆっくり復唱するユミィ。
『ごめんね、頼りなくて。僕は、一応生き物で他の物より考えられるけど…。
でもそれは…、僕にとっても難しい問題だ。
でもただ、分かるのは決めるのはユミィ自身だよ。感情って、よく理解出来ない。頼りなくてごめん』
途切れ途切れの、泣きそう声を出すソフラ。毛布から顔を出して、ソファー上のソフラを見つめる。
「こっちこそごめん、ソフラ。貴方も大変なのに」
『いいよ。僕、ユミィの為に創られたのに。役に立てなくて、ごめん』
物凄く悲しそうなソフラの顔。白いウサギのような生物は、無理して笑っていた。謝らなくていいのに、私の方こそ謝りたい。いつも、ごめんねと。
『でも、良い答えが見つかると良いね』
ソフラは、本当に優しい子。
いつも支えてくれる相棒に、良い言葉がかけられず静かに唇をかみしめる。
こういう時、どうやって人を慰められるのか。ユミィは、よく分からない。そのため、誤解されやすい。あいつは、冷たい奴だと。それが、自らの一番嫌いな性格で、直したい所。自己嫌悪の泥沼に陥りそうになる。
「ありがとう。ソフラは、頼りなくなんかないよ」
そう呟き、静かに目を閉じた。逃げるように話を終わらせる自分。
『ありがとう』
その時、確かに。かすかに、ソフラの声がした気がした。
…ソフラ、嫌、身内に何か
役に立てたかな…?
複雑な感情と共に、逃げた自分を憎んだ。