強引に
会場から、宿泊ホテルへ。
ロビーに入った瞬間。
「申し訳ございません。モーガン様で、お間違いございませんか?」
年を召した従業員に呼ばれた。頷くと静かに、フロントの奥へと案内された。フロントの中は、資料の山。
その先にある、小さな座敷の戸。隠れるように、存在してた。…それまで床だったから、和風の物があると違和感がある。
「この先に、ミカエル・サン・スフィア様がいらっしゃいます。どうぞ」
靴を脱いで膝をつき、ひき戸を引く。膝立ちして、部屋に入る。冷たい畳の感覚…。
部屋は少し狭かった。1人か2人ぐらいしか、入れない空間。
その中心にある1つの窓。換気をしないせいか、青臭い畳の匂いがする。耳が痛くなる程、とても静か。
その空間の中心に、2枚の座布団。1つ奥の方に、ミカエルが座っていた。もう1つの座布団には、誰も座っていなかった。
「悪いな、ユミィ。そこに座ってくれ」
今さっきまで黙っていた彼女が、言葉を発した。言われた通りに、空いている座布団に正座する。慣れないので、少し足が痛いが…。
「せっかく泊まったのに、任務しなくても良いとか…。何だったのですか?」
青白い顔をしている。…あれ?
さっきも思ったが、この人がこんな顔する珍しい。それに、TMSGの制服ではなく、漆黒のスーツを着ている。それに比べば、私は、青いロングドレスだ。なんか、場違いかも…。
「すまない」
「良いですよ」
さっきから、何だか暗い。いつも元気な人だから、口数が減ると変だ。何か、あったのかな。
「それより…その前に、お前に話さなくてはならない事がある」
その言葉で、妙に心がざわめいた。
「落ち着いて、聞いてくれ」
「大丈夫です。ね?ソフラ」
『うん、僕も平気。ミカエル、顔真っ青だよ?どうしたの?』
ミカエルは何も答えない。目を閉じ、わずかに悲しげな笑みを口元に浮かべた。何かに堪えるようなミカエルの表情。
数秒間の沈黙。何分経ったのだろうか。しばらくして、ゆっくりと目を開く彼女。
「異世界へ、行ってくれ」
一瞬なんて、言われたのか理解出来なかった。
「ーーーーすみませんが、もう1度言ってください」
「異世界へ、任務に行ってくれ。私の親友の為に」
今度こそ、よく聞こえた。が、理解できない。…何故だ?私は、候補生だ。普通、候補生は、異世界へ行けない。なのに、この目の前の人…「行け」っていった。
『でも、ユミィは…候補生。異世界へ行く事は…違法では?』
ごもっとも!私は候補生。普通…1つ上の護士か、1番上の警護士しか行ってはいけない。
いくらなんでも、私にしなくたって。
「私の言う事は、絶対だ。嫌とは、言わせない。今日、行ってもらう。なに、私の権限に刃向かおうとする命知らずなんて、いないからな。
私は容赦ないから、警護士時代から『漆黒の悪魔』と言われてた。昔と比べば、コレでも優しい方さ」
反論出来ずに、固まるユミィ。
「第2師部隊隊長シルベット・エル・オリビア、一般人含む28名を救出してこい。いいな?部下を渡すし、大丈夫だろ?」
…まさか、こんなに早く異世界への任務の日が来るなんて。思いもしなかった。深いため息を零す。
「おい!ラリマー!!」
ミカエルの叫ぶ声。黒い塊が天井から、落ちてきた。全身を黒いマントで隠した人が、自分の目の前に立っている。黒いマントから、緑色の目だけ見えていた。
呆然と目を見開き、見つめるユミィ。
…何ソレ?
「お前か」
低い声…たぶん、この声質なら、若い人だろう。…ラリマー……って、誰?
「連れていけ」
荒々しく命令するミカエル。
「御意」
悲鳴を上げるユミィ。いきなり、お姫様だっこされたからだ。ムリに、腕の中から出ようと抗う。が、女性は、男性の力に勝てない。
そうしている間に、彼は口元で何かを当て
、何かを唱える。
その次の瞬間。彼らは青いダイヤモンドダストに包まれ、その場から消えた。
1人残されたミカエルは、ため息を零す。
「少々、荒用事だったが…しょうがないな」
全ては、親友のためだ。