委ねよ、さすれば打ち払わん
「外……?」
岩窟の中に僕はいた。
「ああ、忍、来たね。」
岩窟の中では牧人が緊張感を顔に漲らせて立っていた。
「ここで何をするんだ?」
成り行きで来たが、魔術師試験と言うからには試験官相手に戦闘でもするのか?
「あれと戦うの。」
牧人はそう言いながら岩窟の外を指さした。
僕は外を覗き込んでぎょっとした。
外には翼を生やした悪魔のような怪物がたくさんいるのだ。
「あれはガーゴイルの亜種。皮膚は脆いけど結束力と繁殖力は強いんだ。」
「ほー。」
人外の物と、戦うのですか?
「お?」「ん?」
僕が唖然としている中、剛とガルムが現れた。その後には中野先生がいる。
「では、これから試験を行う。目的は外の怪物、ガーゴイルを殲滅すること。ひたすら戦え。手段は厭わない。」
「ガーゴイル?」
剛とガルムが驚く中、なお、と中野先生は付け足すように言った。
「敵前逃亡した場合は私が粛正をする。ここの存在を知られた以上は、協力か死かだ。」
「―――マジかよ。」
剛は真っ青な顔で呟いた。否、彼だけではない。ガルムや牧人もだ。
恐らく、僕もだろう。
「―――やってやるさ。」
牧人はゴクッと唾を飲み下すと、扇を片手に構えた。
剛やガルムも各々の獲物を構えた。
「―――その覚悟、上等だ。この戦いで各々の才能が開花できることを期待する。」
中野先生はそう言うと、指を弾いた。
その瞬間、僕達は糸に引っ張られたかのように外に放り出された。
ガーゴイル達はそれに気付いて僕達に襲いかかった。
くそったれ!
僕は咄嗟に青龍刀を抜くと、向かってきた怪物を三体まとめて薙ぐ。
渾身の振りで三体まとめて胴が斬れる。
柔だな。さすが亜種というだけはある。
僕は返り血を浴びながら、返す刃でガーゴイルを斬りつける。
そのまま、剣を構えて静止した。
僕には剛ほどの剣の腕前がある訳ではない。
だから……気迫でカバーするしかない!
「うおおおおおおおおおおおおおッ!」
「―――くっ、何体いるんだ。」
「ガーゴイルの数だけって感じだな。」
僕と剛は背中合わせになって肩で息をついていた。
僕らの周りだけぽっかりと穴が空き、周りには怪物の死体が転がっていた。
そしてその穴の外にはガーゴイルが包囲してひしめき合っている。
「お前は何体斬った?」
「百は。」
「俺は二百。」
「敵わないな。」
僕と剛は言葉を交わしあって苦笑した。
締めて三百体。いや、それ以上だ。
なのに、ガーゴイルの勢いは絶えない。
辺り一面がガーゴイルという気がする。
「キエエェェッ!」
突然、奇声を上げてガーゴイルが飛びかかってきた。
剛が剣を差し向けた。途端に水が噴射されて怪物はすぱっと斬れた。
まさにウォーターカッターのように。
「格好いいな。そりゃ何だ。」
「村雨丸。」
「あー、八犬伝の水を噴く剣?」
「―――の模倣作だそうだ。使用者の魔力で水を生成するらしい。」
「一応、魔術の一環か。」
「だな。」
僕らが言葉を交わしている間、ガーゴイルはジリジリと包囲網を縮めていた。
剛が水を勢いよく吹き出して近づき過ぎたガーゴイルを寸断する。
それで後退るが、ガーゴイルはめげずに接近してくる。
「こりゃ、厳しいな。消耗戦かよ。」
剛が苦笑する中、どこから剣を投げてきた。
咄嗟に僕が反応できずに、僕の頭に剣が吸い込まれ―――。
ぐさっ。
「忍!しっかりしろ!」
ハッと我に返ると、剛が自らの腕を犠牲にして僕を庇っていた。
「すまん!」
僕は叫ぶと同時に踏み込んで近づくガーゴイルに牽制した。
しかし、飛び道具が有力だと知られたようで四方から剣や槍が飛んできた。
僕らは必死にたたき落とすが、全てが防げる訳ではない。
剣がいくつも足を掠めていく。
「くっ……。」
致命傷がないのは良いが、このままでは―――。
(力を貸してあげようか?)
声が響いた。女性の声が。
「え?」
僕は思わず見渡したが、物騒な顔をしたガーゴイルしかいない。
「忍!」
剛の声に我に返ると、僕はファルシオンで飛来してきた物を弾いた。
(貴方がもしどうしても力を欲するのであれば、私は貴方に力を与えることが出来るわ。まぁ、欲しくないって言うんだったらいいけど……。)
ぶつぶつと頭の中で誰かが呟いた。
「だったらくれ!仲間を守る力を!」
(ならば委ねなさい、私に全てを。)
僕の声にそれは応えた。
全身に何かが迸り、僕を支配した。
だが、嫌な感覚ではない。
その支配の赴くままに僕は両手を合わせた。
そして、くわっと口を開いて腹の底から声が噴き出た。
「風陣、《青龍乱舞》!」
身体が動く。
軽やかにステップを踏みながら青龍刀を舞わした。
その一閃でガーゴイルは風の刃に切り刻まれ、吹き飛ばされていく。
そして地を蹴り、ふわりと浮かぶと空中で回転した。
と、同時に風の刃が刀から放たれて戦場にひしめき合うガーゴイルを切り刻んだ。
再び、僕が地に足を着く時には、そこら一体は血の海と化していた。
何なんだ……この力は……。