少年達の隠密行動
賑やかな学校。そこで四人の少年らが一つの机を囲んで談笑していた。
「やっぱり紅組だろなぁ、忍?」
「いや、白組だよ。だって演歌歌手の大御所が出るんだからな!」
僕らは年の瀬に行われる番組の話をしていた
それもそのはず、この日は終業式であり、この日以降は多くの生徒が楽しみにしている冬休みなのだ。
もちろん、ここにいる僕―――忍も例外ではない。
「やっぱ、観点がずれているよな。忍は。」
紅組を応援する友人はおかしそうに笑った。
「今は若いアイドルグループで決まりだよ。」
「いや、そうでもないぞ。」
僕はダンッと机を叩いて反論した。
「今、若い者も演歌は歌う。海外の人も演歌を歌っているんだ。」
「まぁ、確かにそうかもね。」
「だろ?牧人。」
意見の支持を貰って僕は思わず嬉しくなった。
僕を支持した友人、牧人は整った顔に微笑みを浮かべて頷いた。
学生服も様になっており、校則では禁じられている長髪だが、後ろで一本にまとめることで専ら女子に適応される校則を利用して先生の追求を逃れている。
こういう人間に、私はなりたい。なんて某小説家のように思う。
「うわー、出た。優等生スマイル。これだからモテるんだよなぁ。牧人は。」
「剛だってモテるよ。一部では。」
「へぇ?じゃあ、その一部を言ってみろよ。」
「………。」
「ほら言えねえじゃねえか!」
絶望したように剛は机に突っ伏した。
ちなみに、彼の顔はそんなに悪くはない。標準並みの顔であり、彼の部活、剣道部で見せる鋭い眼光は女も魅了できるはずだ。だが、女達はその魅力に気付かないのだ。全く、女は盲目だな……。
「まぁ、剛もいつか見つけられるって。」
「そう軽く言うけどなぁ、ガルム、そう言う貴様も同じような物だろう?『も』なんて副詞を使う権限なんて無いクセに。」
剛は突っ伏した状態から立ち直ってガルムと呼んだ少年に言った。
ガルムはうぐっと奇妙な声を上げて黙り込んだ。
ガルムという少年―――本名、高田正樹もそんなに顔は悪くない。童顔であることを除いては。本人はそのことをコンプレックスにしているらしい。
「みんな良いよな。僕よりはまだ顔がいいし。」
忍は不満げに言った。すると三人はそりって苦笑した。
(忍も本当はそこそこな顔をしているんだけどなぁ……。)
(ただ、趣味が頂けないだけで―――。)
友人らの心の中にそんな気持ちが走った―――のは、この当時の僕は知らなかった。
と、丁度そのとき、アナウンスが流れた。
“二年三組、草薙牧人君、至急第二職員室まで来て下さい。”
男の低い声のアナウンス。牧人ははぁ、とため息をつくと立ち上がった。
「横田、じゃないよな。生徒指導部の。」
てっきり、長髪の件で呼び出されると思っていたのだが。
「今のは中野先生だろ。体育科の。」
牧人はそう言うと、「ま、どうでもいいけどね。悪いことはしていないし。」という優等生ぶった台詞を残して教室を去った。
「―――ちょっとむかつくよね。」
ガルムは含み笑いをして言った。何か怖い雰囲気を纏っている。
「ああ、同感。」
剛も頷くと含み笑いをした。弱みを握れるかもな、と言わんばかりに。
そして、二人は頷き合った。
「行くか!」
僕ははぁ、とため息をついた。
どうせ、一緒についていく羽目になるのだから。
僕らは第二職員室に行くと、中野先生と牧人が移動を始めていた。
場所は第一職員室?いや―――。
気付かれないように後をつけていく。
そして辿り着いたのは―――。
「まさかこんな所か……。」
僕は思わず声を漏らしていた。
旧体育館。今や倉庫である建物だ。そう言えば、生徒会の安倍が言っていたが、一時期著しい老朽化で取り壊しが検討されたが一部の理事が金と権力を効かせてその案自体を取りつぶしたらしい。さすが、金持ちは違う。
―――と、追いかけないと。
僕達は距離を空けて尾行していくと、彼らは扉を押し開けて中に入った。
パッと駆けて慎重に扉を押し開けようとしたが、開かない。どうやら、中から鍵を掛けたらしい。僕は思わずほっとして剛達を振り返って言った。
「残念だな。ここまで―――。」
「剛!」
「オッケー。」
あちゃー、忘れていた……。僕は頭を抑えてため息をついた。
この剛、ピッキング―――鍵の解錠作業が特技なのだ。
剛は鍵穴に針金を突っ込むとガチャガチャと上下左右に動かした。
―――カチャ。
「オッケー。」
キラーンと歯を見せて笑う剛。皆さん、見て下さい。これが俗に言うドヤ顔です。
ガルムは満足げに頷くと、音を立てないように扉を押し開けた。
中はがらんとしていて牧人と先生がどこに行ったか分からない。
「よし、こっちだ。」
ガルムは自信満々に中を歩き始めた。
「え……?そっちで本当にあっているのか?」
剛が心配して訊ねた。ガルムは振り返って微笑む。
「だってさ、足跡がついているじゃん。」
僕と剛は足下を見てその事実に気付いた。そっか、埃が積もっているから。
ガルムは足音を立てずに颯爽と体育館の階段を上る。構造上、確か上は体育教官室のはず。そんな所で何を……?
僕はそんなことを思いながら剛と共にガルムの後に続いた。
「よし、ここだ。」
ガルムがすぅっと息を吸って言った。体育教官室、だ。
僕は扉を慎重に押してみたが開かない。試しに引くがそれも開かない。
やはり鍵か。
剛はニッと笑うとポケットから針金を取りだした。
それを鍵穴に差し込むと先程と同様にカチャカチャとまた上下左右に動かし始める。
ハヤブサです。
この辺は少し変えて、剛の見せ場を少し多くしてみました。
そして伏線も丁寧に張ってみたりして。
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