忍と牧人の恋慕~告白編~
前回の続きです。
彼は暫く黙っていたが、口を開いた。
「最初に好意を抱いたのは……その容姿だね。」
「まぁ、第一印象、それだよな。普通は。」
「正直、その程度で良い所のお嬢様だろうと思っていた。だけど、あのガーゴイルの所の戦う姿に……惚れた。」
彼の顔は真っ赤だ。僕は身体を拭きながら、それだけ?と問うた。
「他にも……小悪魔みたいな笑みや無邪気な話し方、それに心から温かくしてくれる……話し方?性格?雰囲気?言葉では形容できないけど、そんな物に惚れた……んだと思う。」
「ほー、よく言えました。」
「い、言ったぞ!?次は―――。」
「あ、そうそう、牧人。」
僕は身体を拭き終えて服を着直しながら言った。
「そこの間仕切り……というか衝立ってさ、これ、布一枚だよね?」
僕はそう言いながら、牧人が間仕切りとして引っ張ってきたカーテンを摘み上げて訊ねた。
「あ……。」
「聞こえていた?」
僕が間仕切りの向こうに問いかけると、暫し沈黙があって大喬さんの声が聞こえた。
「今、小喬は顔を真っ赤にして黙り込んでいます。」
「だってさ。」
「―――ああぁぁ……。」
牧人はその場で力無く崩れ倒れた。
「あの、忍さん、私の方は終わったのですが、そちらは……?」
「ああ、僕も。」
僕が軽く答えると、大喬さんはささっと間仕切りのカーテンをしまった。
すると、その向こうでは小喬さんが真っ赤な顔で俯いていた。
「あらら……。」
「嬉しそうですけどね……。」
僕と大喬さんがニヤニヤと笑いながら言うと、突然、牧人がゆらりと立ち上がった。
「忍……約束は忘れていないだろうな!」
彼はそう言うなり、バッと僕に飛びついて押し倒した。
「いでっ!」
倒されて肋が悲鳴を上げる。だが、彼の力は緩まない。本気のようだ。
しかし……困ったな。『好きとは言っていない。』という逃げの一手を用意していたが、目の前でこう大喬さんが期待の眼差しで僕を見ていると……その一手は悪手だな。
仕方ない。僕は口を開いた。
「牧人同じだけど……最初はその容姿に目を奪われた。だけど……いつだって必死に僕を治療して、看病してくれることが嬉しくて……。」
「好きになったと。へぇー。」
小喬さんがすっかり復帰してニヤニヤと笑いながら自ら姉の頭を小突いた。
その大喬さんは顔真っ赤だ。さっきと構図が全く逆である。
「だったら付き合いなさいよ、もう焦れったい。」
小喬さんは牧人と同じ事を畳み掛けるように言うと、大喬さんはもじもじと床に『の』の字を書きながらぼそぼそと呟いた。
「忍さんが良ければ……良ければ、良いのですが、そんな身に余ること……。」
「だってさ。忍。」
牧人も笑みを浮かべて催促する。そんな友人が不公平に感じて僕はニヤッと笑うと言った。
「ああ、付き合うのに不本意な点はないけど、それじゃ、つまらないな。」
「え?」
「あんたらも付き合えよ。そしたら。」
僕がそう切り返すと、二人は顔を見合わせ、かあああ、と急速に顔を赤くした。
「ま、牧人さんが良いなら……。」
「しょ、小喬さんが良いのであれば……。」
二人は同時に言って、えっ、と顔を見合わせてまたしても顔を真っ赤に染め上げた。
「不本意ではなさそうだね。」
僕は笑みを浮かべると、大喬さんの手を握った。
するとビクッと彼女は肩を跳ねさせた。
「大喬さん……付き合って、下さいますか?」
「え……はいっ!」
僕が思いきってその言葉を口にすると、大喬さんは眩しい笑顔で頷いて見せた。
大喬さんが嬉しそうに僕の手を握る中、僕は視線を牧人に向けて、お前も、と視線で促した。
牧人は覚悟を決めて深呼吸をすると、小喬さんの手を壊れ物を扱うかのようにそっと取った。
「しょ、小喬さん、つ、つつつ、付き合って下さい!」
「は、はいっ!」
―――あー、何というか、レアだな。牧人が顔真っ赤に緊張するというのは。
録画しておけば良かった。
ニヤニヤと僕が生暖かい目で見ていると、大喬さんが嬉しそうに腕に抱きついてきたのだった。
―――黒田君、これで良いよね?
ハヤブサです。
ふむ、喬姉妹との恋とはまた……。
三国志であったら二人は孫策と周喩になりそうですな。
次回は出右衛門が口走っていた青龍とか何とかの解説です。