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魔術師達の舞踏会  作者: 夢見 隼
第一章
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忍と牧人の恋慕~吐露編~

『忍さん……。』

 夢、だろうか、黒田君が真っ白な世界で微笑んでいた。

『ありがとうございます。仇を取って下さって……。』

 大したことではない。それどころか、何も出来なかった。と僕が呟くと彼は黙って首を振った。

『いいえ、私の亡骸を守ってくれました。そして仇も取ってくれた。これだけで私はもう十分です。あ……でも一つだけ、心残りが。』

「何だ……?」

 僕が問いかけると、彼は苦笑を浮かべた。


『従姉妹……大喬と小喬です。彼女らは強いですが、精神的にはあまり強くない所もあります。ですから……傍にいて下さいませんか?』


 ―――僕で良ければ。

 暫く経ってそう言うと、彼はにっこりと微笑んだ。

『では、お願いします。』


「うぐっ……!」

 夢から覚醒すると、脇に鋭い痛みが走って身体を起こした。

「あ、忍さん!大丈夫ですか?」

 突然、響く声に頭がガンガンする。

 僕は頭を振りながら焦点を定めると……そこには小喬さんがいた。

「小喬さん……。」

「大丈夫ですか?痛みは……?」

「メチャクチャ痛いよ。そりゃ。」

 僕は言いながら脇を押さえた。また胸に一撃を食らったせいかこの前の折れた肋がひしひしと痛む。

「ああ……動かないで。まだ治療が済んでいないの。」

「そうか……。」

 僕は苦痛を堪えながら、布団であることを確認しつつ再び横たわると、ふよっと何だか温かく柔らかい物に頭が包まれるのを感じた。

「あれ……?」

 僕は視線を真上に向けると、大喬さんがすやすやと壁に寄りかかってお休みになっていた。

「これは……?」

 僕が引きつり笑いを浮かべて訊ねると、小喬さんは大喬さんに似た綺麗な笑みを浮かべて説明を始めた。

「順を追って話すと、姉が走って私と中野さんや羽賀さん、牧人さんの所に来て、それで皆で保健所に駆けていったその時、凄まじい爆ぜる音が響いて、そのせいで空いたらしい大穴から中に入ると、壁にめり込んだ状態で死んだ敵と、出血多量で意識を失っている忍さん、それと……すでに死んでいる将兵さんがいました。私達はとりあえず、全員を安全な場所に運びましたが、その際の姉の狂乱ぶりが凄まじくて。」

「ど、どんな風に?」

「まず、血まみれの忍さんを見ますと、忍さんの名前を呼びながら抱き寄せて、脈があることに安心したその次には一気に治療の術を施したのですが、何分、この前、忍さんの大怪我を治したのにかなり魔力を使ったためにすぐに魔力切れです。ですが、それにも構わず、治療を続けようとする姉を私と牧人さん、中野さんで説得して、ここに運んできたらそれはそれでせっせと看病を始めまして。」

「あ、あはは……。」

「で、私が無理矢理交代するまではこんな感じでした……。幸せ者ですね。」

「とっても。」

 僕は苦笑を浮かべながら頷くと、穏やかな顔で寝ている大喬さんの手を握った。

「じゃあ、もう少し休んでいて構いませんよ。まだ、中野さんも現場で実況見分をしていますから。」

「じゃ……お言葉に甘えて……。」

 僕は痛みを感じながらその温かな膝の温もりに誘われるかのように眠りに落ちていった。


 次に目を覚ますと、牧人と小喬さんがせっせと水に布巾を濡らして絞っていた。

「―――あ、忍、起きたか。」

「おはようございます、忍さん。」

 牧人と小喬さんが僕に気付いて挨拶をする。

 ああ、おはよう……と挨拶を返そうとした時、ふわりと温かい物が首に巻き付いた。

 誰かの腕、と認識するのに暫く時間が掛かった。

「おはようございます……忍さん。」

「あ、ああ、おはよう。大喬さん。」

 そうだ、ずっと彼女は膝枕してくれていたんだっけ……。

 僕はそう思いながら痛みを堪えつついそいそと身を起こすと、大喬さんに向き直った。

「ありがとう、大喬さん、よく眠れたよ。」

「い、いえ……。」

「足、痺れなかった?」

「これしきのこと!大丈夫です!」

「そう、良かった。」

 僕が微笑みを向けると、彼女の頬がほのかに朱に染まった。

「はいはい、先程からお暑いことですが。」

 小喬さんは呆れたように言いながら大喬さんを手招きした。

「昨日からずっとそのままでしょ?拭いてあげるから……。」

「ほら、忍も。」

「あ、おう。」

 牧人がそう言いながら、男性と女性の間に間仕切りを引っ張ってきた。

 僕は頷いて服を脱ぐと、牧人は水気を含んだ布巾で僕の背中を拭き始めた。

「大変だったな。忍。」

「ああ。」

「ゆっくり休めよ。後で中野先生がいろいろと話に来ると思うが。」

「おう。」

「あと、大喬さんととっとと付き合っちまえよ。焦れったい。」

「な!?」

 僕は思わず振り返ると、牧人はニヤニヤと笑いながら手を動かした。

「彼女の好意は分かっているだろ?あんな優良物件は他にいないぞ。」

「まぁ、小喬さんがいるけどな。」

「か、彼女か!?」

 激しく挙動不審となる牧人。

 あー、やっぱりか、と僕は納得しながら反撃を始めた。

「お前は小喬さんのことが好きなんだろ?」

「な……何を根拠に?」

「その反応だよ。いつもの牧人だったら、人の心を見透かしたような笑みを浮かべながら『何を根拠にそんなことを言うんだい?』とか言うのに。」

「くっ……。」

 牧人は力強く僕の背中を擦る。その顔は真っ赤だ。

 その顔を僕はニヤニヤと見つめながら言った。

「じゃあ、牧人は小喬さんのどこが好きなんだい?」

「な、何でそんなことを言わねば……。」

「交換条件、だ。」

 僕は少し真顔になって言った。

「―――僕が話したら、忍も話す、とか?」

「そ。で、乗る?」

 僕が促しながら彼の手の布巾を取り、身体の前を拭きながら訊ねた。

 彼は暫く黙っていたが、口を開いた。


ハヤブサです。


書いていたら5000字ぐらいいっちゃったので前後編で分けました。

実際、吐露編とはいえ、牧人の恋心が分かっただけで全然吐露ではありません。

次回に吐露と……そして……?



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