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ゴーグル8:ゴーグル君消毒される

詳細を尋ねてみると、会長さんは昔からああなのだという。非科学的なことは信じたがらないようで、幽霊だとか宇宙人だとか、そういった類をまやかしと一蹴する。ゴーグル君はさしずめUMAといったところか。

とにかく、ゴーグル君をお姉さんがやっている腹話術だと信じて疑わない。彼に口や表情筋といったものが無いのが災いしたのかも知れないが、もっと根本的なことだろう。確かに僕も入学するまでゴーグルが喋るものだとは思いもよらなかった。会長さんは僕よりももっと、常識に囚われやすいタイプなのかもしれない。

「でも、お姉さんの幼馴染ってことは、ゴーグル君とも幼馴染ってことになるんじゃないの?」

「うん。そうなるね。けど、一度も信じてもらえたことはないよ」

それで良いのだろうか。

「まあそれに、わたしもいつもいつも彼女と眼鏡と一緒に居たわけでもなし、二人が頻繁に会ってたわけではないわ」

お姉さんが少し言いにくそうに口を挟む。

ひょっとすると、弟の存在を認めない友達と、彼を意図的にあまり会わせなかったのかもしれない。どちらも嫌いなわけではなく、両者の板ばさみというかジレンマというか、複雑な心情があるのかもしれない。

何にせよ、僕が立ち入るべきではないだろうと思う。彼ら姉弟と会長さんの問題だ。話を変える。

「そういえば、会長さんは随分よそよそしい話し方をしていますね」

幼馴染というのなら、もう少し砕けていても良さそうだ。

「うん。あの子は、幼稚園からあの喋り方よ。わたしのことも最初から君付けだったわ」

「へえ、そうなんですか」

もう一つ。少し気になったこと。多分当たり障りのないこと。

「それにしても、ゴーグル君たちは一度引っ越したって聞きましたけど?」

「ああ、会長が同じ学校に居るのが不思議ってこと?」

「ええ」

「あの子はわたしを追っかけてこっちに来たからね」

「ストーカーなんだよ。彼女は」

「ふうん。気味が悪いですね。じゃあ、彼女は一人暮らし?」

「そうね。アパートを借りているわ」

よく親が許すものだ。いや、無二のソウルメイトと離れたくないから一人暮らしをさせてくれ、と言えば、親も許す…… のだろうか?



勉強会を終えると、お姉さんとおばさんの勧めを断りきれず、夕食をご一緒する運びとなった。親に連絡を入ると、好きにすればいいということで、厚意に甘えることにした。

見たこともないご馳走が出るでもなく、普通にカレーだった。福神漬けが少しウチのものより酸味が効いていた。

「ところでゴーグル君は?」

「ゴーグル君?」

「えっと、眼鏡君のあだ名です」

ついうっかりニックネームを言ってしまったら、おばさんには通じなかった。通じそうなものだが。

「そう、そんな風に呼ばれているのね、あの子は」

「お母さん、そういえば今日はあの子、塩水が良いって言ってなかった?」

「あらそうだったかしら。炭酸水を用意してしまったわよ」

「あの子ソーダ嫌がるじゃない」

「あら、駄目よ。眼鏡だってもう子供じゃないんだから、好き嫌いさせちゃ」

母と姉はやはり世話焼きなんだろう。ゴーグル君の話題を持ち出すと、さりげなくも会話が弾む。

「それで、彼は?」

「ああ、今はお風呂じゃない? お母さん入れた?」

「うん。煮沸したわ」

風呂というのは、熱湯消毒も兼ねていたのだろうか。

二人の話によると、ゴーグル君はいつも消毒を受けて、それから三人で食事という流れのようだ。消毒は念入りに行われるらしい。病気になったら可哀想だということで、彼女らの愛情の深さを感じる。多分病気とかには罹らないだろうけど、余計なことは言わなかった。

それで、今日は僕が居るものだから、普通の家庭のご飯時に三人で先に頂いたということらしい。気を使わせてしまったということらしい。僕が恐縮したのを見て、おばさんが気にしないでねと声を掛けてくれたが、やはり申し訳ない。多分勉強会をご飯時まで続けたせいで、いつもなら消毒が始まる時間まで彼を拘束してしまったことが、今の状況に繋がるのだろう。普段なら帰ってすぐなりに消毒、ご飯、お姉さんと勉強というライフスタイルなんじゃないだろうか。だけどそれに僕を巻き込めば、僕の帰りが遅くなる。だからずらしたのだろう。それでゴーグル君だけご飯が遅くなってしまった。

中々難しいものだ。ゴーグルが居る家庭にお邪魔するというのは。いや、ゴーグルも人も関係なく、やっぱり他人の家に上がるってのは、色々気を使い使われということなのかもしれない。



おいとまという段になって、やっとゴーグル君がお風呂からあがった。見送りをするというので、持ち上げて玄関まで行き、靴を履いて、お姉さんに渡す。最初からお姉さんが一人で運べば手間にならないだろうに、見送りなんだから御崎君に持ってもらうというゴーグル君の要望だった。わかるような気もするがやっぱりよくわからない。

「今日はご馳走様でした」

「君は良いよね。僕はこれからサイダーに漬けられてシュワシュワするらしい」

笑っておく。彼の気持ちを知るために、今度サイダーを箱で買って、家のバスタブに満たして入ってみようか。いや、勿体ないからやめよう。

ご家族に見送られて、何度目か知らない夕食の礼とお邪魔しましたを重ねて、家を出る。

「あ」

近くの電柱の影から覗く顔があった。全校集会なんかで見る童顔。生徒会長ご本人。

「本当にストーキングしている気持ち悪い!」

見て見ぬフリして去ろうか。逡巡したのが悪かったらしい、目が合ってしまった。

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