第7話「長老評議会と、沈黙の重み」
西へ。
石の廊下が徐々に変わっていく。
彫り込まれた木の天井。
漆黒の梁が走る淡い壁。
障子越しに夕陽が差し込む。
金色に染まる畳の香り。
まるで別世界。
「今日はキツかっただろ」
ケイト・シゲロが肩越しに振り返る。
足取りは軽い。
「俺は慣れてるけど、お前らはそうでもない。とりあえず俺の部屋で休もう。飯も食うぞ」
質問じゃなくて決定事項。
誰も口を挟まない。
障子を開ける。
広間。
伝統的な和室。
でも、尋常じゃない豪華さ。
壁には浮世絵。
床の間には江戸時代の鶴の花器。
低い漆の膳卓。
座布団が並ぶ。
そこに並ぶ料理に全員が息を呑む。
ふぐ三種盛り。
黄金のキャビア。
極上の和牛。
香りが部屋を支配する。
極薄の巻き寿司。
花びらを浮かべた味噌汁。
トリュフ入り玉子焼き。
銀粉のあんこ菓子。
「こんなの……」
直子が手を伸ばしかけて慌てて引っ込める。
「うちでも食えないレベルだ」
鷹嗣が苦笑い。
着物姿の女性たちが入る。
鶴と桜の刺繍が美しい着物。
音もなく座席を案内。
すぐに酒を注ぐ。
十年以上寝かせた古酒。
甘い米の香りと果実の余韻。
綾奈が小さく呟く。
「……夢みたい」
「静かに味わえ」
鷹嗣が優しく制す。
そこへ。
シゲロが戻ってきた。
着物に着替えている。
漆黒の羽織が妙に似合う。
そして。
眼帯の代わりに。
薄いダークグラス。
高級すぎるオーダーメイド。
顔の半分を隠しながら、逆に存在感が増す。
全員が気づく。
「気づいたな」
指で軽くフレームを直す。
「ちょっとイメージチェンジ」
直子が眉を上げる。
「眼鏡……?」
「たまには変える必要がある」
さらりと。
「見られ方で世界は変わる。たった一つのパーツで、畏れられるか、敬われるか」
綾奈が無意識に髪を触る。
鷹嗣は目を細める。
シゲロがくすっと笑う。
「まぁ、正直に言うと、眼帯は視界が狭くて邪魔だっただけ」
軽く言って。
全員が思わず吹き出す。
でも誰も深くは聞かない。
シゲロが上座に座る。
盃を傾ける。
女性たちが次々と料理を運ぶ。
鷹嗣は思う。
(こいつ……全部計算してる)
でも今は。
もう考えるのをやめた。
《……たまには、こんな夜も悪くないか》




