第6話「秘密の学園と、舞う少女」
通路はますます曲がりくねる。
深い木立の奥。
灰色の石壁が現れた。
まるで自然の一部みたいに周囲に溶け込んでいる。
空気が古びている。
時間がゆっくり流れてる気がする。
巨大な扉の前。
鷹嗣の心臓がどくどくと鳴る。
「着いた」
ケイト・シゲロが振り返る。
声は低く、静かだ。
「ここからは二人だけだ。鷹嗣と直子さん」
雷が落ちたみたい。
「えっ!?」
綾奈が父の腕を掴む。
「ちょっと! 私たち置いてくの!?」
ライトも母にしがみつく。
目が泳ぐ。
「ふざけるな!」
鷹嗣の声が震える。
シゲロが一歩前に出る。
「静かに」
柔らかい声。
でも空気が一瞬で凍る。
鷹嗣をまっすぐ見る。
「ここにいるのは、お前が会いたくなかった連中だ」
「長老評議会。お前の最近の派手な動きが気に入らねぇらしい」
「長老……?」
「自分の行動の結果を理解させる。それだけだ」
直子が青ざめる。
夫の腕を強く握る。
綾奈が何か言おうとする。
シゲロが先に口を開ける。
「俺がついてる」
綾奈とライトを見る。
「心配するな。大丈夫だ」
綾奈は唇を噛む。
信じきれない目。
扉が軋む。
ゆっくりと開く。
奥は闇。
中央に黒い石の円卓。
ぼんやりとした灯り。
座る影たち。
「安心しろ」
最後に綾奈にだけ。
「何かあったら、お前が一番最後を知る」
にやりと笑って。
二人を中に促す。
扉が閉まる。
重い音。
室内。
息が詰まる沈黙。
中央の長老が立ち上がる。
「藤原鷹嗣! 自分の行動の重さを理解しているか!」
右側の長老。
「お前の顔がニュースに踊りすぎだ。目立ちすぎだ」
左側の長老。
「慎重さと知恵が必要だ。お前にはどちらもない!」
声が壁に反響する。
鷹嗣は中央に立たされる。
まるで被告人。
手が汗ばむ。
直子がそっと手を握る。
冷たい指。
――確かに、やりすぎた。
合併プロジェクト。
派手な会見。
メディア露出。
全部、失敗だったかもしれない。
「私は……」
声が掠れる。
その瞬間。
「もういい」
ケイト・シゲロの声。
静か。
でも誰も逆らえない。
長老たちが凍る。
「鷹嗣は自分の過ちを理解した。それ以上は無意味だ」
肩に手を置く。
守るような、力強い手。
直子がちらりと見上げる。
不安と感謝が混じった目。
シゲロは二人を連れて歩き出す。
誰も止めない。
扉が閉まる。
外の空気が急に軽くなる。
鷹嗣が呟く。
「……あの人たちは?」
シゲロは振り返らない。
「影から世界を動かす連中だ」
「お前が知らない方がいい」
鷹嗣は頷く。
でもまだ震えが止まらない。
「ありがとう……ケイト」
シゲロは軽く首を傾げるだけ。
「お父さん!」
綾奈が駆け寄る。
ライトも続く。
鷹嗣は苦笑い。
「俺……やらかしたな、子供たち」
俯く。
直子が優しく手を握る。
「違うわ。あなたは精一杯やったのよ」
温かい声。
シゲロは少し離れて壁に寄りかかる。
腕を組んで見ているだけ。
「全員生きてる」
静かに。
「それだけで十分だ」
鷹嗣が顔を上げる。
感謝の目。
「……そうだな」
シゲロが体を起こす。
「行くぞ」
冷たく、でもどこか優しい声。
沈黙はもう重くない。
まるで温かい毛布みたいに。
過酷な現実から守ってくれる。
《俺たち……これからどうなるんだ?》




