第5話「黒いヘリと、選べない未来」
数時間後。
ヘリがゆっくりと降下する。
着陸は羽のように滑らか。
家族は気づくまで数秒かかった。
ガシャン!
ドアが開く音で全員が跳ね起きる。
「うるせぇんだよ! クソ野郎、静かに開けろって言ったろが!」
ケイト・シゲロが唸る。
「申し訳ありません!」
兵士が背筋を伸ばして即座に退散。
シゲロが舌打ちして手を振る。
「まぁいい。着いたぞ、お客様方」
もう地面に立ってる。
相変わらずポケットに手を突っ込んだまま。
鷹嗣が目をこすりながら窓の外を見る。
「……ここ、どこだ?」
深い森。
湿った木と草の匂い。
木漏れ日が金色に地面を染める。
前方に広がるのは。
巨大な複合施設。
灰色の石壁、ステンドグラス、ゴシック風の尖塔。
まるで古い歴史小説から抜け出してきたみたいだ。
「綺麗……」
綾奈が小さく呟く。
「そうだろ」
いつの間にか横に立ってるシゲロ。
「地図には載ってない。秘密ってことで、いいな?」
軽い口調。
でも底に刃が隠れてる。
「さぁ、中へ」
鷹嗣がもう一度聞く。
「ここは何なんだ?」
シゲロは振り返らずに。
「学校」
巨大な門。
複雑な彫刻が施されてる。
神話みたいな模様。
シゲロが近づくと。
ギィィィ……。
門が勝手に開く。
中は。
息を呑む美しさ。
灯籠が並ぶ石畳の道。
高い窓の建物。
色とりどりの花壇。
静かで、でもどこか張り詰めた空気。
「すごい……」
綾奈が目を丸くする。
「すげぇ……」
ライトと直子も呟く。
「まぁまぁ見栄えはするよな」
シゲロがにやり。
鷹嗣が食い下がる。
「でも、なんで俺たちを?」
「わかるようになるさ」
それだけ言って歩き出す。
背後で。
重い門が閉まる。
鈍い音が響く。
敷地内を進む。
どこを曲がっても新しい驚き。
遠くから。
鋭い掛け声。
打撃音。
足音。
整然とした喧騒。
訓練場。
十数人の少年少女。
動きが鋭すぎる。
突き、払い、受け。
まるで死の舞踏。
時折、光が弾ける。
綾奈の視線が一人の少女に釘付けになる。
長い髪を翻しながら舞う。
優雅で、でも殺意に満ちてる。
少女が気づいた。
訓練を止めて駆け寄る。
「先生!」
いきなり抱きつく。
家族がぽかんと口を開ける。
「よくやってるな、レン。戻れ」
シゲロが珍しく柔らかく微笑む。
「はーい!」
名残惜しそうに離れる。
また訓練に戻っていく。
綾奈が無意識に拳を握る。
胸の奥がチクリと痛む。
(……何これ?)
鷹嗣が呆然と聞く。
「お前……先生なのか? この子たちの?」
シゲロが肩をすくめる。
「その“子たち”は、小さな街なら三分で壊滅できる」
軽く言う。
でも冗談じゃない。
「言葉には気をつけろよ」
綾奈が我に返る。
改めて訓練風景を見る。
全員が本気だ。
空気が震えてる。
「……ここは一体」
声が震える。
シゲロが遠くの塔を見上げる。
「人を生き残らせる場所」
「守る者にも、壊す者にもなる」
「どっちになるかは、本人次第だ」
それだけ言って。
また歩き出す。
家族は立ち尽くす。
言葉が頭の中で反響する。
《ここは……どんな場所なんだ?》




