第3話「飢えた狼と、影の主」
静けさが戻りかけた藤原家。
突然。
扉が勢いよく開いた。
ケイト・シゲロが飛び込んでくる。
「腹減ったー! なんか食うもんない?」
大音声。
お腹に手を当てて大げさに。
直子が固まる。
さっきまでの死闘からいきなり日常すぎる。
「……あ」
テーブルを見回す。
血のついてない皿を見つけた。
「お、残ってるじゃん」
遠慮ゼロ。
鷹嗣の席にどっかり座る。
鶏の骨付き肉を掴む。
がっつりかじる。
その無遠慮さ。
さっきまでの緊張が嘘みたい。
みんな目が離せない。
「うめぇ! これ直子さん作った?」
口いっぱいに頬張りながら。
満面の笑み。
直子がたじろぐ。
綾奈がぷっと吹き出す。
くすくす笑いが止まらない。
鷹嗣も苦笑い。
包帯だらけなのに。
鷹嗣はため息。
でも文句は言えない。
ゆっくり立ち上がる。
椅子に手を置いて。
「シゲロさん」
声は震えてる。
でも必死に抑えて。
「家族を助けてくれて……本当にありがとうございます。命じゃ返せない恩です」
シゲロは鶏肉にかぶりついたまま。
聞いているのかいないのか。
「でも……あなたは一体? あの力、あの魔法は?」
返事はない。
兵士たちが黙々と片付けている。
血を拭き、壊れた家具を運び出し、壁の弾痕にパテを塗る。
シゲロはジュースに手を伸ばす。
ごくごく飲む。
やっと口を開けた。
「そんなこと、重要か?」
のけぞる。
椅子にだらりと寄りかかって。
「助けた。それでいいだろ」
鷹嗣が食い下がる。
「すみません、でも……知りたいんです」
直子も綾奈もライトも。
息を潜めて見守る。
この世界にこんな力が?
アニメみたいな展開が現実?
シゲロがにやりと笑う。
人差し指を唇に当てる。
「秘密」
綾奈にウインク。
眼帯越しに。
「謎がある方が人生楽しいだろ?」
またジュースを飲む。
会話終了の合図。
そのまま食べ続ける。
ふと思い出したように。
「それよりさ」
口に肉を詰めたまま。
「鷹嗣。お前が心配すべきは俺の力じゃねぇよ」
鶏肉を指で突きつける。
「なんでお前の実弟が、お前らを殺そうとしたかだ」
雷が落ちたみたい。
鷹嗣が凍る。
背筋に冷たいものが走る。
「竹広が一人でそんな度胸出すわけねぇだろ?」
鷹嗣の目が揺れる。
確かに。
弟は小心者だ。
声すらまともに上げられない男。
誰かが背後で糸を引いてる。
「……竹広は」
呟く。
「自分で決めたわけじゃない、ってことですか?」
シゲロがにやり。
「やっと気づいた?」
鶏肉をまたかじる。
「あいつは所詮、腰抜けだ。背中刺すのだって誰かに言われなきゃできねぇ」
椅子にふんぞり返る。
完全に上から目線。
鷹嗣の心臓が早鐘みたいに鳴る。
家族を守るだけじゃ済まない。
もっと大きな何かが動いてる。
そして目の前の若者は。
それを知ってる。
そこへ。
黒服の兵士が近づく。
片膝をつく。
胸に手を当てて。
「殿、下地の処理完了しました。死体は全て処分、証拠は消去。後続の掃討部隊に引き継ぎます。撤収しますか?」
家族全員が固まる。
敬語。
跪く。
武装した大人が。
綾奈が直子の手をぎゅっと握る。
直子は震える。
シゲロはのんびり。
「あー、もう終わった? 早いな」
口元をナプキンで拭う。
皿に放り投げる。
「ご苦労。いつも通りだな」
兵士が頭を下げる。
まだ跪いたまま。
「じゃあ撤収していいぞ。俺もすぐ行く」
兵士は家族を一瞥もせず。
立ち上がって静かに退出。
部屋が静まり返る。
シゲロがにやにや。
「なんだよ、その顔」
みんなを見て笑う。
「火星人でも見たみたいだな」
鷹嗣が震える声で。
「……あなたは一体」
シゲロが大声で笑う。
首を反らせて。
「俺?」
鷹嗣に顔を近づける。
低い、ぞっとする声。
「欲しいものは必ず手に入れる男だよ」
それだけ言って。
にやりと笑った。
《こいつ……底が見えねぇ》




