第17話「目隠しの男と、死の影」
ケイトはゆっくりと頭を巡らせた。
顔から、さっきまでの満足げな笑みが完全に消えていた。
無表情。
感情を隠しているわけじゃない。
ただ、消えただけだ。
暗い幕が視線を覆ったように。
目隠しをしていても、客たちのわずかな動きが、この場所の静けさを乱しているのがはっきりわかる。
「旦那様、お客様がお見えです」
客を案内してきた使用人が、頭を下げて告げた。
「ああ、見えてる」
ケイトの声は冷たく、遠い。
ゆっくりと足を下の段に置き、階段の影に腰を下ろす。
目隠しを外さず、指を軽く動かした。
その瞬間。
全員が、彼の目に見えない力を肌で感じた。
「私どもは……」
フリードリヒが、軽い訛りを交えながら口を開く。
言葉を抑えようとしているのに、少しぎこちない。
だが、言い終わる前に。
ケイトが片手を上げた。
それだけで、言葉は不要だと告げていた。
空気がぴたりと止まる。
指の間を軽く風が鳴った。
何も言わない。
ただの仕草。
でも、絶対の命令。
客たちは一瞬で緊張に包まれた。
目隠しをした、無表情のケイト。
まさに「冷遇」の体現者。
昨日から感じていた、あの拒絶。
門の前で、彼の世界の人間たちが説明もなしに避けていく姿。
ここに、歓迎なんて最初からなかった。
ケイトが全ての視線を吸い取る。
階段を下りきり、耳の後ろを掻く。
考えているような仕草。
声は平坦で、無駄な抑揚がない。
なのに、なぜか挑発的。
「ずいぶん探したんだな」
眉を寄せて、ケイト。
「俺の部下たちを散々脅かして、今度はここまで来たか」
目隠しの下から、鋭い視線で一同を見回す。
まるで、ずっと前から彼らの来訪を知っていたかのように。
「で、ご用件は?」
軽い皮肉を込めて。
言葉が、試すように響く。
重い沈黙が庭を満たす。
誰も口を挟まない。
ただ、彼の言葉だけが宙に浮く。
経験豊富な客たちでさえ、息苦しさを感じた。
この男、本当に予想していた相手なのか?
セルゲイ・グロモフが最初に沈黙を破る。
いつもの調子で一歩前に出て、手を差し出した。
「ケイト殿、お会いできて光栄だ! 私は……」
返事の握手を期待して。
だが、ケイトは客たちを見もせず、自分の思考を続けるように遮った。
軽い口調で。
「セルゲイ・グロモフ。ロシアの億万長者、実業家、そしてマフィアの頭。……知ってるよ」
グロモフの動きが凍る。
手が宙に浮いたまま。
心臓が一瞬、跳ねた。
これまで常に注目を浴びてきた男が、初めて自分の場じゃないと感じる。
頬が熱い。
わずかな硬直。
普段の彼らしくない。
どうして、こんな目隠しの若造に。
まるで全てを見透かした目で、無視されるように扱われるんだ?
《こいつ、何者だ?》
グロモフの頭に怒りが湧く。
《小細工くらいで、俺にこんな態度を取る権利があると思うなよ》
これほど軽んじられたのは初めてだった。
地位も、金も、名声も、何の意味も持たない相手。
他の客たちは息を潜め、視線を交わす。
ケイトが、こんな大物に平然と接する姿。
普通なら死に物狂いで話したい相手だ。
ただの傲慢じゃない。
もっと深い、何か。
グロモフが困惑した顔で立ち尽くす中。
チャオ、龍二郎、リチャード、そして娘たち。
全員が同じ結論に達していた。
このケイトという男は。
彼らの世界の人間じゃない。
自信、軽やかさ、眉一つで大物を蔑む態度。
ただの若き富豪や、狡猾な起業家じゃない。
もっと別次元。
制御できない存在。
《礼儀も知らない奴だ》
チャオが内心で毒づく。
見えない壁を感じる。
ケイトは、ただ立っているだけじゃない。
彼らの上に立っている。
この謎の施設に集まったのは、世界を動かす者たちとその子ら。
権力、金、敬意に慣れた者たち。
なのに、目隠しの若者に、ろくな挨拶もされず立たされている。
その無関心と無遠慮が、全員を苛立たせる。
リンフェイ夫人が、慣れた薄い笑みを浮かべ、目を細めた。
「では、わたくしたちがお越しになった理由も、ご存知ですこと?」
狡猾に、餌を投げるように。
ケイトが軽く首を傾げる。
あまりに明白な質問だと言わんばかり。
「もちろん」
微笑みの影だけを浮かべて、楽しげではない声で。
少し首を傾け、何かを聞き耳立てるように。
「直感すら要らない。父親たちが病んでいることくらい……その気配、異常すぎる」
空気が一気に重くなった。
これまで、誰も口にしていなかった。
病気のことを。
互いにさえ隠していた。
一同が顔を見合わせる。
この男、ただの当てずっぽうじゃない。
知っている。
「このままじゃ、近いうちに全員死ぬよ」
さらりと、まるで天気の話のように。
それで、限界が来た。
「言葉に気をつけなさい!」
晴子が叫ぶ。
怒りで声が震える。
拳を握り、一歩踏み出す。
だが、父の強い手が肩を掴んだ。
「落ち着け、晴子!」
大和龍二郎が低く押さえる。
リンフェイ夫人も唇を噛む。
我慢の限界。
「ええ、静かにしなさい、晴子」
自分も抑えるのに必死な、硬い声で。
全員が理解した。
ケイトは、ただの挑発じゃない。
こいつは、本当に知っている。
問題は。
その知識と引き換えに、何を要求するのか——。
俺は目隠しのまま、階段の下に立っていた。
奴らの動揺が、心地いいくらい伝わってくる。
病気のことは、最初からわかってた。
さて、どう料理してやろうか。
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