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第15話「門前、集う牙」

「ドローンで撮った写真だ」


部下がテーブルに数枚の写真を投げ出す。まるでトランプを配るように、丁寧に並べて。


古い複合施設の映像。


巨大な建物。古びた壁に、固く閉ざされた窓。


かつては名門校だったらしい、威厳を残すシルエット。


「でかい古い施設だ。あの人がいる可能性が高い。だが確証はない。他に手がかりはゼロ。辿り着いた住所も妙だった。ただの古い住所と、一言——『探してるなら来い』ってな」


大和晴子は無言で写真を手に取る。


冷たい、鋭い視線。


一枚一枚、細部まで確かめる。


この学校は罠か、それとも鍵か。


古い建物……そして、あの奇妙な言葉。


「なんて大きな施設……」


指で写真の端をなぞりながら、呟く。


「廃校みたいね。偶然とは思えないわ」


写真を置き、視線を上げる。


部屋にいた者たちが息を呑む。


彼女の癖だ。突然切り替えて、相手に考える隙を与えない。


「準備は完了?」


冷たく、しかし確かな声。


「はい、お嬢様」


「よろしい」


晴子は椅子に深くもたれ、考える。


「あの人はこちらに来る気がない。こっちが探してるのを知ってて……なら、こっちから行くまでよ。この学校へ」


決断は揺るがない。


立ち上がり、ドアへ向かう。


足取りは決して乱れない。


周囲は知っている。


彼女が決めたら、実行される。


それが大和晴子の流儀。


学校……いや、残骸。


晴子はいつも思う。


こんな場所は、心の奥底を映す鏡だと。


ケイトも、それをよく知っているらしい。


振り返る。


瞳が、砥石に刃を当てる瞬間の鋭さ。


「準備を急げ。私たちはそこへ向かう。失敗したら……帰る場所はないと思え」


◇◇◇


最終準備を終え、一行は出発した。


十台の高級車。


武器を満載し、どんな事態にも対応できる装備。


夜の街を疾走する。


晴子は最後尾の車に座り、父・大和竜二郎の頭を膝に預けていた。


隣には清澄忠。


「心配しないで、父さん。私が必ず治してあげる」


声は固い。自信に満ちている。


緊張が高まる中でも、彼女の決意は揺らがない。


竜二郎はまだ弱っているが、明らかに回復していた。


道中は早かった。


時折、道行く人に道を尋ねながら。


驚くことに、聞いた誰もがケイトを知っていた。


敬意を込めて「旦那様」と呼ぶ。


恐怖の裏に隠れた、奇妙な忠誠。


それがますます濃くなる。


やがて、街の外れ。


霧の中に、巨大な門と施設の輪郭が浮かび上がる。


近づき、車列が止まる。


前方に、別の車が数台。


晴子の我慢が、限界に達しそうになる。


「これは……?」


車から降り、怒りが爆発しそうになる。


信じられない光景。


一台の車から降りてくるのは——リンフェイだった。


晴子は氷の表情で近づく。


足取りは確かだが、全身から殺気が滲む。


また道が交わるのか。


中国の大物令嬢が、同じ目的でここに?


「何してるの、ここで」


言葉は冷たい刃のように夜を裂く。


答えは、もう分かっているのに。


「何してるかって?」


リンフェイの声に甘い嘲りが乗る。


紅い唇が弧を描く。


優雅に一歩踏み出し、黒髪を肩に流す。


「ふふ、私も同じこと聞きたいわね、可愛い子」


晴子が目を細める。


怒りを抑え、声に鋼を込める。


「答えなさい。どうやってこの場所を見つけたの?」


リンフェイが鼻で笑い、もう一歩近づく。


状況を楽しんでいるようだ。


「あなただけが資源を持ってると思ってるの? それとも、私が誰だか忘れた?」


視線が危険に輝き、声が氷のように冷たくなる。


晴子は拳を握り、爪が掌に食い込む。


だが、爆発はさせない。


空気が張り詰める。


二匹の雌豹が睨み合う。


一瞬のミスで、すべてが終わる。


◇◇◇


二人の口論が熱を帯び始めたその時——


キィッ!


急なブレーキ音。


数台の車が横付けされ、ヘッドライトが闇を切り裂く。


ドアが開き、降りてくるのは——


長い金髪を波打たせた長身の女。


淡い青の瞳が、まずリンフェイを、次に晴子を捉える。


唇がだらけた笑みを浮かべる。


「へぇ、揃いも揃って」


声は少しハスキー。タバコを吸い終えたばかりみたいだ。


「エレナ……」


晴子がわずかに眉を寄せるが、声は平静。


エレナ・グロモワ。


セルゲイ・グロモフの娘。


あの謎の病に冒された投資家の一人。


ケイトの噂は、思った以上に広がっていた。


大和晴子は腕を組む。


「いつまで突っ立ってるの?」


刃のような声。


「仕方ないわよ」


リンフェイが落ち着いて答える。


見た目は余裕だが、瞳に苛立ちの火が灯る。


「門は朝十時まで開かないって」


「何……!?」


晴子が拳を握り締める。


「こんな距離を来て、ただ待てって!? 父さんの容態が悪化したらどうするの!」


リンフェイが肩をすくめる。


「信じて。私だって一刻も早く入りたいわ。でも、他人の寺に自分のルールは通らないのよ、晴子」


反論しようとした瞬間——


また新たな車が到着。


次々と並ぶ高級車。


ドアが開き、降りてくるのは——


ルドヴィク・デュポン。


リチャード・ウィンタース。


フリードリヒ・ヴァイス。


それぞれの息子や娘を連れて。


まるで、ケイト狩りが上流階級の同窓会だ。


◇◇◇


門前の夜


巨大な門の前に、高級車がずらりと並ぶ。


まるでエリートレースのスタートライン。


闇の中で、タバコの火がちらちらと光る。


誰も黙ってはいられない。


最初に口を開いたのは、ルドヴィク・デュポン。


白髪交じりのフランス人。重い視線、無欠のスーツ。


娘のカトリーヌが隣で腕を組み、退屈そうに周囲を見回す。


「諸君」


声はワインと葉巻をくぐってきたような渋さ。


「誰か説明してくれないか? なぜ我々はこんな門の前で、羊の群れのように待たされているんだ?」


「この場所の主が、そう決めたからだ」


フリードリヒ・ヴァイスが冷静に答える。


氷のような青い瞳。


息子のユルゲンが、門を睨む。


「ふん……」


デュポンが舌打ち。


「笑える。我々は答えを買うことに慣れている。待たされることにはな」


リチャード・ウィンタースが袖口を直す。


背が高く、引き締まった英国人。


「これは演出の一部だ」


控えめに笑う。


「ケイトが我々を見つけられたくないなら、見つけられなかったはずだ」


「哲学はいい」


晴子が苛立った声で割って入る。


「父さんの状態は時間との勝負よ。一晩中ここに突っ立つ気はないわ」


「つまり、他人の家に押し入りたいと?」


リンフェイの声に嘲笑。


「どうするの? 唯一の救い手を脅すの?」


大和晴子は拳を握り、黙る。


エレナ・グロモワが鼻で笑う。


「だったらさ」


気だるげに。


「時間潰しでもしようよ。誰か飲む?」


銀のフラスコを取り出し、蓋を開けて一口。


「ロシア人は……」


デュポンが疲れたように溜息。


「フランス人は」


グロモワがにやり。


「いつも真面目すぎるわよね」


「中国人は」


フリードリヒがリンフェイを見る。


「いつも切り札を隠してる」


「ドイツ人は」


リンフェイが軽く笑う。


「いつも予想通り」


「英国人は……」


晴子が口を開きかける。


「……ステレオタイプの会話には加わらない主義だ」


リチャードが肩をすくめて締める。


一瞬の沈黙。


そして、小さな笑いが漏れる。


緊張が、わずかに和らいだ。


だが、空気にはまだ不安が漂う。


全員が、同じ一人を求めてここにいる。


ケイト。


そして彼は、間違いなく——


すでに全員の到着を知っている。


《こいつら全員を呼び寄せて……何を企んでる?》


《朝が来るまで、油断はできないわ》

皆さん、こんにちは! 作者です。


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改めて、ありがとうございます♡


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