旅の仲間
タルカス生涯の友、ヴァーゲンとの出会いです。
中央街道を歩き始めて三日が過ぎた。
村で母が持たせてくれた干し肉はまだ残っていたが、一人きりの旅路は、タルカスが想像していた以上に静かで、そして長かった。
その日、街道が緩やかな丘陵地帯に差し掛かった頃、タルカスは道の先、馬車の轍の脇で奇妙な動きをしている人影を気がついた。
近づいてみると、それは壮年の男だった。
使い古して色褪せたローブは裾が擦り切れ、ボロボロだ。
手には、節くれだった樫の杖。杖頭には青白い石が埋め込まれているが、今は埃をかぶって鈍い光しか放っていない。
男は、道端に生えたキノコを杖でつつきながら、何かをぶつぶつと呟いていた。
タルカスが警戒しながら横を通り過ぎようとした、その時。
「おおい、わかもの。……そのこしのは、じぶんれうったけんか?」
不意に声をかけられ、タルカスはびくりと肩を震わせた。
振り返ると、男が杖を片手に立ち上がるところだった。その声は、まるで熱い粥を頬張ったまま喋っているかのように、ひどく不明瞭だった。
「……そうだ。俺が打った」
タルカスは、自作の剣の柄に手をかけながら答えた。
「ほほう。なかなかよいはがねら。……わしはヴァーゲン。まじゅつしら」
男――ヴァーゲンは、気の良さそうな笑みを浮かべた。
「ジュナイスのまほうがくいんへいくところら。……みちづれは、おおいほうがいい。
きみも、みやこへいくんらろ?」
魔術師。
本物の魔術師に会うのは初めてだった。
ボロボロの見た目とは裏腹に、その目は奇妙なほど落ち着き払っている。
タルカスは一瞬ためらったが、この男から悪意は感じられなかった。
「……タルカスだ。俺もジュナイスへ行く。よろしく頼む、ヴァーゲン殿」
こうして、奇妙な二人旅が始まった。
ヴァーゲンの滑舌の悪さには閉口したが、彼は見た目通りの知識人で、街道沿いの薬草や、遠くに見える山々にまつわる古い伝説を、独特の調子で語って聞かせた。
さらに二日が過ぎた昼下がり。
街道が鬱蒼とした森に差し掛かり、日差しが遮られた頃だった。
「ん……?」
先に立って歩いていたヴァーゲンが、ふと足を止めた。
「ちのにおいら……」
タルカスも鼻をひくつかせた。
魔術師の言う通り、生ぬるい風に、錆びた鉄のような血の匂いが混じっている。
街道から少し外れた場所に、ひときわ大きな樫の大樹がそびえている。
問題の匂いは、その根本から漂ってきていた。
タルカスは剣の柄を握りしめ、ヴァーゲンは杖を構える。
二人は慎重に、音を立てないよう草を踏み分け、その大樹の陰へと回り込んだ。
息を呑む光景が、そこにあった。
一人の男が、大樹の太い幹にぐったりともたれかかっていた。
全身を覆うのは、曇り一つない純白の板金鎧。それはまるで、陽の光をそのまま鋳て固めたかのような輝きを放っていた。
侯爵に仕える騎士か、あるいはそれ以上の高貴な身分を思わせる、見事な装具だ。
だが、その純白を、おぞましい赤黒い染みが汚していた。
男の首――兜と胸当ての隙間から、大量の血が流れ出た跡があり、すでに乾き始めている。
盾は左腕に装着されたまま、土の上に力なく置かれている。
そして、男が握りしめていたはずの剣は、少し離れた草むらに無残に転がっていた。
この時点でタルカス16歳、ヴァーゲンは28歳ぐらいです。
ヴァーゲンは旅立ちの儀式を終えて、既に魔術師として独立しています。




