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第6話 蜂の巣
ある日の昼下がり、石鼠が庭の隅の木を見上げてにやりと笑った。
枝の奥に、ずっしりとした蜂の巣がぶら下がっている。
「殿下、本日のごちそうは天の恵みにございます」
「ま、まさか……!」
允成は一歩下がった。
羽音がぶんぶんと響き、黒い群れが巣の周りを舞っている。
石鼠は手際よく煙草を焚き、煙を巣に送り込んだ。
ぶわりと蜂が散って逃げる。
その隙に長竿で巣を落とすと、中から黄金色の蜜がとろりとこぼれ出した。
「ひいっ!」
允成は思わず明玉の背に隠れる。
しかし石鼠が小皿に蜜をすくって差し出すと、甘い香りが鼻をくすぐった。
「殿下、恐れることはありませぬ。お味見を」
「……仕方ないな」
恐る恐る舌をつけた瞬間、濃厚な甘さが広がった。
允成の瞳がぱっと輝く。
「……っ!」
思わずもうひと口、さらにもうひと口。
気づけば皿は空になっていた。
「殿下、こっそり箸が進んでおりますぞ」
石鼠がにやにやと笑う。
允成は顔を真っ赤にして叫んだ。
「う、うまいなどとは言っておらん!」
明玉の笑い声が、夏の青空に澄んで響いた。




