表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/9

第3話 焚火の夜

 夕暮れ。

 石鼠は池から魚を釣り上げ、庭の一角で火を熾した。


「石鼠! 後宮で焚火など……!」

 思わず声を上げる明玉に、彼は手を止めず答える。


「ご心配なく。殿下には特例が下されております。狩りも、魚獲りも、焚火も――すべて生かすために許された務めにございます」


 その言葉に、明玉は胸をなでおろしたが、允成はぎゅっと拳を握った。

 “生かすために”――その響きに小さな棘が刺さったのだ。


 石鼠は竹串に魚を刺し、火にかざす。

 ぱちぱちと脂がはぜ、匂いが漂う。傍らでは塩で浅く漬けた野草も並べられている。


「粗末ながら、これぞ自然の恵み。殿下、召し上がれ」


 允成は鼻を鳴らすが、結局は魚にかぶりついた。

 じゅわりと広がる旨みに、思わず目を見開く。


「……悪くはない」


 明玉がほっと笑みを浮かべた、その時だった。


「殿下は皇統を継ぐ最後の保険にございますからな」


 石鼠がうっかり口をすべらせた。

 その一言に、允成の手が止まる。


「保険……? ならば、父帝はやはり私を……」


 焚火の炎が揺れ、少年の横顔を赤く染める。

 声が震えたが、すぐに唇を噛み、涙を押し戻した。

 泣いてはならぬ。皇子なのだから。


 その矜持の影を、明玉は黙って見守った。

 匙をそっと差し出すと、允成は無言で野草の漬物を口に運ぶ。

 苦みと塩味が混ざり合い、幼い胸のざわめきを鎮めていく。


 三人はやがて並んで火を囲んだ。

 星の瞬く夜空の下、炎が小さくなるまで、ただ静かに食事を続けた。

 その横顔には、少年から皇子へと変わろうとする影が、確かに宿っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ