わからない
炎が揺れていた。
建物は崩れ、周囲からは悲鳴や泣き声、絶叫。
阿鼻叫喚という言葉はおそらくこの為に生まれたのだとさえ感じた。
そして、その阿鼻叫喚の中心にいるのは…
ぐずぐずに潰れた黒い龍の死体だった。
「はぁ…!はぁ…!」
俺は息を切らしながら目覚める。
ベッドのシーツは汗でぐっしょり濡れていた。
「久々だな…この夢……」
俺はそう言うと視線を下に落とす。小刻みに震える両腕はさっきまでの夢の鮮明さを物語っていた。
「そうだ、お城に行かなきゃいけないのか」
俺は約束事を思い出し、出掛ける為の準備をする。
そして準備をしながら昨日の出来事を思い出す。
〜昨日〜
「この場所にアムス・ストリアと言う方はいらっしゃいませんか?」
店に入ってきた少女は息を切らしながらそう告げた。
額に伝う汗が慌てている様を一層感じさた。
そんな彼女の様子を見てしばらく大将と俺は目を合わせ呆然としたが、大将が少女に話しかける
「まあまあ嬢ちゃん、とりあえず落ち着いて茶でも飲めよ」
そう言いながら大将は席に座る様に促す。
「あ…すみません……お気を遣わせてしまいましたね…」
少女はハッとした後に自らの態度に謝罪する。
「わたくしの名前はラルト・ウォール、この国の第一王女です」
その言葉を聞き再度大将と目を合わせる。
こんな所に王女?しかも一人で?、そんな疑問が胸を深く支配されるのを抑え、まず肝心な事を聞く。
「なんで君はそのアムスって人を探してるの?」
俺はそう聞いてみる、彼女はおそらく俺がアムス本人である事を知らないようだ。
顔も知らないような相手をあんなに必死に探すなんて余程の事情がか、何か裏があるに違いない。
すると彼女は口を開く。
「実は…この地域にまた黒龍が来るとのお告げがありまして…」
彼女の口から出た言葉に、俺の胸は締めつけられる。
「黒龍ねぇ…どうしてそう突拍子もなく…」
大将はそんな俺を察して代わりに会話を続ける。
「我々、ウォール家が代々お世話になっている占いを生業としている一族の方がいるのですか、その方が今から13年前の黒龍襲来と同じ光景が見えたと仰ったのです。」
にわかには信じられない様な話を、ラルトは淡々と続ける。
「で、その話からなんでアムスって人を探すことになるの?」
俺は再度同じ質問をする。
するとラルトは少し顔を険しくして言う。
「アムスさんを探す理由は一つです、彼が唯一黒龍からこの国を守れるお方だからです!」
最悪だ、その言葉だけが俺の頭の中を巡った。