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第72話 神魔大戦と残響種


「あたしっスか?」


 ……そうだ。

 改めて考えてみれば、もっさんってかなり怪しい気がする。

 いや、たしかに存在自体が怪しいのは前からなんだけど、今回私が怪しいと感じているのは、もっさんが『天使に攻撃されたことへの意趣返し』的な理由で、わざわざ紅月を焚きつけて、天使を呼び出させたことだ。


 本当に天使に一泡吹かせたかったのなら、もっと、いくらでもやりようがあったはず。

 そもそも私たちに任せたところで、一泡吹かせるどころか、逆に私たちが泡食って死にかけただけだし。

 たしかに最終的に天使のほうからどっか行ってくれたけど、そもそものもっさんの狙いである〝意趣返し〟にはまったくなっていない。


 それに彼女が綾羅から燦花へ移動してきたのもよくわからない。

 これじゃまるで、私を追ってここまで来たようにしか思えない。

 それもあらかじめ燦花に寄ることを知っていたような。


 そして極めつきは戸瀬の存在だ。

 もっさんはたしかに自分が戸瀬を呼んだといっていた。

 理由は鳳凰を討伐するためだと。

 つまりもっさんは――


「あらかじめ、このタイミングで鳳凰が暴走することをわかっていた。だから、丹梅国に行こうとしていた私たちを、天使を使って燦花に寄らせ、鳳凰を討伐するように仕向けた……で、あってる?」


 私がもっさんにそう尋ねると、彼女はしばらく口に手を当て、何か考えるようなそぶりをしたのち、軽くうなずいた。


「まぁ、なんていうか、あとで言うつもりだったんスけど、それであってるっスよ」

「そっか。……ねえ、ひとついい?」

「なんスか?」

「これから、助けがほしかったらさ、素直にそう言ってくれないかな?」


 もっさんはただ黙って私を見る。


「今までいっぱい助けてもらってるんだし、わざわざこんな感じで裏から手を回さなくったって、もっさんに手伝ってって言われたら、喜んで手伝うよ。もちろん、私ひとりの力じゃ魔王の助けになんかならないと思うけどさ、それでも相談はしてほしかったなって。だから、こういうのはこれっきりにしてほしい。それだけは約束してくれない? ……なんかちょっと悲しいしさ」


 私がそう言って、もっさんに小指をつき出した。


 これに関しては偽らざる本心だ。

 もっさんとは基本的にはなんでも言い合える仲……とまではいかないが、それなりに腹を割って話せる仲だと思っていた。

 それだけに私には内緒で、彼女が水面下であれやこれやと動いていたのは少し……いや、かなりショックだった。

 たしかに仲がいいからと言って、互いの秘密のすべてを包み隠さずに言い合う必要はない。

 けれど、今回の一件は、あらかじめもっさんが私に伝えてくれれば、二つ返事で了承した事柄だ。私が役に立つかどうかは置いておいて。

 だからこその、これっきり。


「……わかったっス。こんなややこしいことはもうしない。約束するっス」


 彼女は少し間を置いてからそれに応じてくれた。


「うん。……じゃあ、話を戻すけど、鳳凰の暴走はもっさんが?」

「そ、そうなのか!? 妾を暴走させたのは、おぬしの仕業じゃったか!」

「いやいや、それは違うっス」

「よかった……」


 もっさんが否定してくれたことに、私は心底安堵した。

 もしかしたらその可能性もあるかなって思ってたけど、本当に良かった。

 そもそも、もっさんがそうする理由がわからないしね。

 でも、そうだとすると――


「……もっさんはなんで、鳳凰が暴走するってわかったの?」

「それは――」


 もっさんは言い淀むと、鳳凰をちらりと見た。


「うん? なんじゃ?」

「……ま、いずれ知ることになるから、もう言っちゃうっスけど……それはまっさんが、異世界人だからっス」

「私?」

「もっというと勇者だからっスね」

「どういうこと?」

「お、なんじゃ。親愛的(ますたあ)は勇者じゃったか。どうりで体の調子がいいはずじゃ」

「いや、勇者ってそんな健康グッズ的なものじゃないでしょ。というか、今は勇者じゃないし」

「おや? そうなのか?」

「それはあくまで肩書の話っス。まっさんは今でも、異世界人で、勇者なんス」

「そうなの?」

「前例はほぼないっスけどね。わざわざ異世界から召喚されたのに、肩書剥奪なんて。よっぽどなにかマズイ事をやらかしたとか」


 なるほど、今回のそのよっぽどは、紅月だったってわけだ。


「ま、それは今はどうでもいいんス。話を戻すけど、残響種は近くに勇者がいると活動が活発になるんスよ」

「もしかして、さっき鳳凰が言ってた、体の調子がいいっていうのは、気のせいでも何でもなく……?」

「調子は本当によいぞ。あとは勇者だけじゃなく、神と大魔王もじゃな」

「勇者と神と……()魔王? 魔王じゃなくって?」

「おや、まっさんは神魔大戦(じんまたいせん)についてはまだ未履修だったんスか」

「じんま……それ前に知らないって言ったら、紅月に叱られたんだけど、どういうものなの?」

「うん、簡単に説明すると、昔々、神と魔王たちとで戦争したんスよ。結果は、神の勝利。負けた魔王たちは二度と一緒に悪だくみできないように、世界各国に散り散りに飛ばされたってわけっス」

「はえ~、ちなみにその魔王の中には……?」

「もちろん、あたしも含まれてるっスよ。元はあたしもこう見えて智天使だったんスけど――」

「は? ……え? 智天使? 恥天使でも痴天使でもなく?」

「なんて失礼な。それに、そんな驚くことないじゃないっスかあ」

「だって、天使だよ? もっさんが天使って――」


 その瞬間、私の脳裏に、頭上に光輪を乗っけて、神に祈っているもっさんの姿が現れた。


「……う~ん、コレジャナイ」

「めちゃくちゃ言うじゃないっスか」

「あ、ごめんごめん、話の腰折っちゃって」

「まあいいっスよ。自分でもガラじゃないって思ってたっスから。……で、そんな天使たちを引き連れて、神に反逆したのが、その大魔王なんス」

「なるほどね。つまり大魔王含め、魔王は全員元天使で、神と元天使たちが戦ったのを、神魔大戦と呼ぶと」

「まあ、一部、元天使じゃないのもいるっスが、だいたいそんな感じっスね」

「――で、妾が生まれたってわけ」


 鳳凰はすっと腕を組むと、片頬をわずかに持ち上げ、口元に笑みを浮かべた。


「なんでドヤ顔してんの」

「……うん、まぁ、ここからは残響種についての説明しようと思うんスけど、まっさん、残響種についてはなんか知ってるんスか……?」

「残響種って、鳳凰とかオオムカデとかのことでしょ? 共通してるのは……大きいことくらい?」

「大きいかどうかは関係ないっスね。世の中、小さい残響種だっているっス。現にそこにいるちびっ子だって残響種っスから」

「ちびっ子言うな! 妾たち残響種は、神魔大戦の生き残りじゃ!」

「生き残り? もしかして、鳳凰も戦ってたの?」

「ちびっ子さあ、情報はもう少し正確に頼むっスよ。……こいつは生き残りじゃなくて、どっちかっていうと、被害者のほうが表現としては近いっス」

「全然ちがうじゃん」

「ええい、そんなに変わらぬわ! よいか、妾は神魔大戦の余波で常の理を越えた存在となったのじゃ! 敬うがよい!」

「要するに、神魔大戦の副産物ってことでしょ?」

「言い方! なぜわざわざショボい意味で例えるのじゃ!」

「はは、良いっスね、副産物。これから副産物鳥って呼ぶっス」

「やめるのじゃ! 一山いくらで売られておらぬわ!」

「はは……、微妙なツッコミ。シラけるっス」

「ぐぬぬ……! 乗っかったら突き放される……!」


 仲いいな、このふたり。


「……まあ、ここまで神魔大戦と残響種の説明をざっくりしたっスけど、要するに残響種とかって呼ばれてる連中は、神魔大戦の影響で普通の魔物が変異した姿なんス。だから当時の、勇者とか大魔王とか神とか、そういう気配を感じると、昔の血が疼きだす……ってのを大まじめにやる痛いヤツらって事っスね」

「ふん、もう何もツッコんでやらんぞ」

「ノリが悪い鳥っスね」

「副産物は?」

「……ちなみに、大魔王は疼くのに、なんで魔王は疼かないの?」


 微笑ましいやり取りを尻目にそう尋ねると、ふたりは顔を見合わせた。


「そういえば、なんでじゃ?」

「あたしに訊かれても……」


 どうやらここらへんは、ふたりもよくわかっていないようだ。

 でも、残響種が目覚める原因のひとつが勇者……つまり、異世界人であるわたしだとすれば――


「鳳凰やオオムカデを起こして、この世界の人たちに迷惑かけてるのって、勇者(わたし)たちってことになるの?」


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