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第68話 固定の代償


「なるほど。ステータスの固定を行い、霊核も固定する。それはたしかに、理にかなってるっスね」

「でしょ。攻撃するたびにステータスが変動してるから、おかしいと思ったんだよね」

「ふむ、まっさんをナイフで攻撃するためには、腕を動かす筋肉……つまり霊核が使えなければ、攻撃できないっスからね」


 急に何を言っているんだと思ったら、紅月が手で顔を覆い始めた。


「あ、あの、アスモデウス様……? その例えは気まずいので、控えていただけると……それに、その言い回しですと、少々語弊が……」

「それにしても、ステータスの固定……スか。そんなこともできたんスね」


 深いため息を吐く紅月。

 もっさんの紅月いじりは今に始まったことじゃないけど、若干士気が下がるからやめてほしいんだよなあ。


「……まあね。とはいえ、じつは今までに一回しかやったことないんだけどね」

「そうなんスか? すぐにピンときたわりに、あまり馴染みはない能力なんスね」

「なかなか使う機会がない能力だしね。最後に使ったのは、雨井と酒呑童子の調査に行った時かな」

「雨井さん……」

「酒呑童子……」


 紅月と園場さんがそうつぶやいて顔を伏せる。

 紅月はともかく、園場さんはなんでショックを受けてるんだろう。


「……それで、固定するタイミングだけど――」


 私が言い終えるよりも先に鳳凰が火の粉を散らす。

 そして、それらがまた鳥の形になった瞬間、私は鳳凰のステータスを開いた。

 次に名前横にある錠前のアイコンをタップすると――

〝カチリ〟

 音が鳴り、ロックがかかる演出が入った。


 おそらくこれで鳳凰は何もできなくなった。

 あとは――


「……園場さん? 」


 火の粉がすぐ近くまでやってきているのに、園場さんはただ、ぼけーっと突っ立っているだけ。

 私はそんな彼の背中を、強めにバシバシと叩きながら言う。


「ちょ……! 園場さん、火の粉! 処理!」

「あ、ああ、すまん……!」


 園場さんはようやく気を取り直したのか、刀を構え、旋風で火の粉を押し戻した。

 まだそこまで数はこなしていないのに、動きはすでに板についたようだった。

 一体、酒呑童子のなにがそんなに、彼の動揺を誘ったのか。


「……酒呑童子?」


 そういえば最近、酒呑童子の件で誰かが――


「あっ」


 その瞬間、いままで園場さんに対して感じていた違和感や疑問が、全て繋がった気がした。

 そうして、私は改めて彼の姿を見た。


 背格好もどことなく似てるし、しゃべったときの口調も声もかなり近い。

 極めつけは、どこからともなく武器を取り出す能力だ。

 たしかに前と比べて、雰囲気が少し暗くなった気はするけど、園場さんって、もしかして――


「……真緒? どうかした?」


 紅月が心配そうに、私の顔を覗き込んでくる。

 この中で一番ヤバそうなのはあんただってのに。


 まぁ、どうかしたのかという問いに対しては、たしかにどうかしてるんだけど――


 刀を鞘に納めた園場(・・)を見て、私はかぶりを振った。


「うん。今はそんなの気にしてる場合じゃないよね。……それより聞いて、今、鳳凰のステータスをロックした。これで、もし私の推理が正しかったら、鳳凰はもう何もできない」

「何もできない? どういう意味だ。現に鳳凰は今しがた、火の粉を――」

「あ、これからって意味ね。まぁ見てて……」


 私の言葉を合図に、二人が一斉に鳳凰を見た。

 鳳凰もまるでそれに呼応するように、翼をはためかせるが――


「なんだ? 火の粉が出てねえ……のか?」


 次に鳳凰は嘴を大きく開けてみせたが――


「さっきの火の息も吐けていない……真緒、これってもしかして……!」

「そう。翼だと火の粉を。胸だと嘴から火を。頭だと発生させた火の粉を、鳥の形をした爆弾に。なら、その状態で固定してしまえば――」

「……何もできない。そもそも材料である火の粉を作れねえんだから、固定した時点で詰みってことか」


 私は園場の言葉にゆっくりうなずく。

 そして実際に予想の通りとなった。

 これでようやく、鳳凰の消耗地獄から解放されたというわけだ。


 あとは何もできなくなったあのバカ鳥の頭に、ゆっくりとハバキリの雷を当てるだけ。

 大丈夫。狙う時間も、集中するための余裕もある。

 落ち着いて、園場の攻撃のタイミングに合わせばいいだけだ。


「園場さん、雷が撃てるようになったらまたカウントダウンするので、合図を……くだ……さ……い……」


 目を疑った。

 私は今、私の目の前で起こっている光景を見て、言葉を失っている。


 なんだ。

 なにが起こっている。


「こ、これって……!」

「おいおい、嘘だろ……!」


 頭に霊核を固定すれば、鳳凰は何もできない。

 たしかに私はそう考え、行動に移した。

 そして現に、あの鳥は火の粉を出すことも、火を吹くことすらもできなくなっていた。

 しかし……そう、そうなのだ。

 それこそが、最もやってはいけなかった行動だったのかもしれない。


 〝火〟は最初から、そこかしこにあったのだ。


 燦花中を包む火、そのすべてが鳥の形となり、私たちのほうを向いている。

 その数はゆうに千……いや、数万羽は超えているだろう。

 これほどの数の鳳凰を、爆弾を、一体どう処理すればいいのか。


『キィィィィィィィィィィィィィィィィ!!』


 まるで勝どきをあげているかのような、鳳凰の金切り声が燦花に響く。

 それを合図に、鳥たちが一斉にこちらめがけて飛んでくる。


 どうする、一旦全員の防御力を最大値まで上げるか?

 ……いや、ダメだ。上げられる時間はほんの1秒ほど。

 これほどの物量だと、そのまま押し切られてしまうのは目に見えている。


 なら、園場の持っている颶風丸という刀にすべてを任せるか?

 ……それもダメだ。

 これまでのものと、今回のものとでは決定的に違うものがある。

 それは、火の粉が四方八方から押し寄せてきているということだ。

 単一方向からならともかく、これほどまでにばらけられたら、園場ひとりではどうすることもできない。だが――


「颶風丸! こいつらを全部押し戻せェ!」


 それを知ってか知らずか、園場はがむしゃらに旋風を起こし、火の粉を押し戻していっている。

 紅月もフラフラの体で、火の粉に向かってナイフを投げつけている。


 そんな二人の姿を見ているだけで、ズキズキと心が痛んだ。

 原因は私にある。

これは私の短絡的な判断が招いた人災なのだ。


「けど……!」


 だったら私も、私にできることを最後までやらなければ。

 向こうが手数で攻めてくるのなら、こっちも手数で返せばいい。

 ひとまず、怒られるかもしれないけど、園場の素早さを――


「東雲! ボサッとすんな!」

「……へ?」


 気が付くと、園場の体が私のすぐ目の前まで迫ってきていた。

 なぜ。どうして。

 そんなことを考える間もなく、彼は私を突き飛ばした。


 そして私は現状を一瞬で理解する。

 火の粉は、すでに私の目と鼻の先まで迫っていた。


 彼は私を突き飛ばすことで私のことを――


「戸瀬――ッ」


 その瞬間、すさまじい爆発音とともに、爆炎に呑まれてしまった。


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