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第4話 真緒の能力はステータスオープン


「……うん?」


 おかしいな。見間違いだろうか。


 私が渡された霊符(かみきれ)には〝ステータスオープン〟という単語しか見当たらない。

 たしかこの霊符は〝使用者の能力を可視化させる〟というタイプのもの。

 可視化とは文字に起こすことであり、その文字とは使用者が一番馴染んだ文字で――


「どひゃあ!?」


 いつの間にか千尋が私の手元を覗き込んでいた。

 しかもなんか、他の二人もすこし離れた場所から私を見ている。


「なななっ、なに勝手に見てんの!?」

「あれ、ダメでした?」

「別にいいじゃねえか。これからパーティ組むんだしよ」

「それは……そう……だけど……」


 たしかに二人の言うとおりだ。

 とっさに作文を見られた小学生みたいな反応をしてしまったが、これから互いに命を預ける関係になるのだ。

 隠し事は出来るだけないほうがいい。

 それに、もしかしたら他の三人もパッとしない能力かも……って、そんな能力でこの世界の人たちも苦戦してる、残響種とやらを討伐できるのだろうか。


「ところで、真緒さんの霊符には何が書いてあったんですか?」

「え? あ……あの……す……すて……」


 なんだろう。

 改めて口にするとなると、すごく恥ずかしいな、この能力。

 というか、これははたして能力なのだろうか。

 今から別のものに取り変えてはくれませんかね。

 国ひとつ消し飛ばす極大魔法とか、あらゆるモノを両断する剣とか、山を殴り飛ばすほどの身体強化魔法とか、時間停止とか、完全催眠とか、世界のルールを書き換えたりとか、そういうのを期待してたんだけど、なんですかね、これは。


「アノステ?」

「お、おほん……す、ステータス……オープン……です……」


 〝ブゥン……!〟

 私がそれを口に出すと、どこかで見たようなフォントで、どこかで見たようなレイアウトの表が現れた。


「名前、東雲真緒……職業、転生者……性別、女……レベル、1……」


 ざっと目を通したが、これもう完全にロールプレイングゲームとかで見るやつだ。

 私の身体能力、主に体力や力、防御、素早さまでが数値化されている。

 たしかに〝ステータスオープン〟の名に恥じぬ能力ではあるけどさ……。


「どうかしましたか?」

「え?」


 千尋をはじめ、なぜか戸瀬さんと牙神くんの反応も薄い。


「もしかして……見えてない?」


 私は自身のステータスが映されている画面を指さし、三人に尋ねてみる。

 皆は一様に顔を見合わせると、示し合わせたように同時に頷いてきた。


「ぷ、プライバシーに配慮したのかな……なんつって……」

「能力名から察するに転生転移モノでよくみかける自身の状態を確認できるものだろう」


 牙神くんが何事もなかったかのように早口で分析を始める。


「ためしに他にも出来ることがないか確認してみてくれ」

「他って……たとえば?」

「ちっ。なんでも他人に訊こうとするな。自分の能力なんだから自分で色々試してみろ成人してるんだろ」

「ぐっ……そ、そういう牙神くんは、どういう能力だったのかな?」

「逸らすな。いまはおまえの能力について話してるだろ」


 なかなか噛みついて離さないなこの少年。

 私はとりあえず牙神くんを無視して、千尋の能力について訊こうとした……が、ここで戸瀬さんの視線に気が付いた。


 なんか、すごい見られてる。

 しかもこれ、私というよりは私と千尋セットで見てないか。


「……な、なにか?」

「いや、あんたら二人、いつの間に仲良くなったんだって思ってよ」

「え?」

「特に市井さんとか、昨日まで全然乗り気じゃなかっただろ? なのに今日になって……なんか、吹っ切れたのか?」


 これは……どう答えたものか。

 私から話すようなものでもないし、かといって私の〝ステータスオープン〟なんかとは比べ物にならないくらいプライバシーな話題だし……。


 なんて私が悩んでいると、千尋から切り出した。


「……ん、すこしだけ真緒さんとお話したんです。そうしたらすごく楽になれたというか、昨日は士気を下げるようなことを言ってしまい、すみませんでした」


 千尋はそう言って頭を下げた。

 べつに謝らなくてもいいのでは。

 とも思ったが、これも千尋なりのけじめなのだろう。


「いやいや、いいってべつに。俺としてはちょっと気になっただけだからよ。……なあ、翔太少年?」


 戸瀬さんはそう言って牙神くんに同意を求めたが、見事に無視されてしまった。


「……それよりよく二人で会話なんてできたな」

「うん? それどういうこと?」


 私が牙神くんに訊き返すと「ああ、たしかにな」と戸瀬さんがかぶせてきた。


「昨日なんて俺、部屋についた瞬間気絶するように寝ちまったみてぇでさ。気が付いたらもう朝になってたんだよ」

「僕もだ。とても外に出ようなんて気持ちにはならないくらい気分が悪かった。おそらくギルド長も言っていた転移による疲れだろう。なんでおまえたちは平気だったんだ?」


 これは……どういうことだろう。

 昨日はどちらかというと、食べ過ぎて気持ち悪くなったくらいなんだけど。


「なんか気になるのか、少年?」

「……いや疑問に思っただけだ。なんでパーティの半分が体調を崩していたのにもう半分は平気だったのかがな」


 言われてみればたしかに気にはなるか。


「じゃあ……ちょっとごめんね。〝牙神翔太〟〝ステータスオープン〟」


 私は前方に手をかざしてそう唱えた。

 しかし――


「おい。なに勝手に僕の情報を見ようとしてるんだ」

「いや、もしかしたら体力の問題かなって思って、それでステータス見比べてみようと思ったんだけど……なんか出ないんだよね。画面」

「どういうことだ」

「もしかして、すてぇたす(・・・・・)は自分のものしか見れない……とかですかね?」


 千尋がさらりと恐ろしいことを呟く。


「いやいや……! それはさすがに欠陥すぎない?」


 自分のステータスしか見れない能力。

 ……そんなんで何をしろと。


「なにか、他に方法はないんですか?」

「方法っていっても、マニュアルがあるわけでもないからなぁ……そもそも触れたりするのかな……」


 とりあえず私はステータス画面に向けて指を伸ばした。


 〝ぴとっ〟


 人差し指に感触が返ってくる。

 画面はホログラム的なものかと思っていたが、どうやら物理的に干渉できるようだ。

 ステータス画面の感触はひんやりと冷たく、まるでガラスに触っているようだった。


「もしかして……」


 私はおそるおそる指を上下左右にスライドさせていく。

 そうすると、ステータス画面も指の動きに連動して動くようになっていた。

 ためしに人差し指と親指でピンチイン、アウトを試してみると――


「スマホだこれ」


 拡大縮小も思いのまま。

 スマートフォンやタブレット端末を操作するような感覚で動作している。

 そして、さらに画面をスライドさせていくと〝戻る〟ボタンを発見した。

 それをタップしてみると――


〝東雲真緒〟

〝市井千尋〟

〝戸瀬一輝〟

〝牙神翔太〟


 私たち四人の名前が表示されるようになり、次に〝牙神翔太〟をタップしてみると、さきほど見たステータス画面が表示された。

 もちろん私のものではなく牙神くんのものだ。

 その証拠に並んでいる数値が私のものと違っている。


「どうだ? なにかわかったのか? こちらからだと何も見えないが」

「……うん。いちおうきみの、牙神くんのステータスを確認することは出来た……んだけど……」

「けど?」

「私のステータスとそんなに変わらないかな」

「なら今度は市井と戸瀬のも確認してみてくれ」

「あ、うん……」


 牙神くんに言われるがまま二人のステータスも確認するが――


「……うん。確認したけど、千尋は私たちの数値とあんまり変わらないみたい」

「戸瀬は?」

「戸瀬さんは……フィジカル面に関しては四人の中だと突出してるね。それも比べ物にならないくらい。だから――」

「体調不良に体力は関係なかったということか」

「そうみたい」

「なあ少年。ひとつ訊いていいか?」


 今まで静かだった戸瀬さんがここで牙神くんに質問をする。


「なんだ」

「それ、今どうしても突き止めねえと気が済まねえのか?」

「……それほどでもないな。現時点で原因の目星はだいたいついている。したがって早急に解決すべき問題ではないだろう」

「原因……ってぇと、転移のことだよな?」

「ああ。おそらく転移召喚によって僕と戸瀬が体調を崩した。そこまではいい。だが問題はなぜ東雲と市井は体調を崩さなかったのかということだ」

「あ、あの……!」


 戸瀬さんと牙神くんが話しているところに千尋が手を挙げて乱入する。


「私、じつは昨日、優れなかったんです。体調」

「……あれ? そうだったんだ? あんなに食べてたからてっきり……」

「いえ、真緒さんと一緒にいたときは、全然何ともなかったんです」

「うん? どういうこと?」

「私、部屋につく前から……というか、皆さんと一緒にいたときからずっとしんどくて、それで気分も沈んでて、ネガティブなことも言ってたんですけど……」

「何が言いたいんだ結局」

「おまえなぁ……んな急かしてやるなよ、少年」

「すみません、じつは体調がよくなった現象に心当たりがありまして。というか、いま確信に変わったんですけど……」


 召喚されてからずっと体調が悪かったが、急に体調がよくなった。

 ということはつまり――


「もしかして、千尋の能力って……?」

「はい。〝治癒〟です。私の能力、治癒魔法だったんです」

「なるほど」


 牙神くんは納得したのか、腕組みをしながら何度も頷いた。


「つまり自分で自分を治療してたということか。だから症状が改善した」

「じゃあ、牙神くんの言うことが本当なら、昨日の男の子の怪我を治療してる時は、もう魔法を使ってたってこと?」

「い、いえ、あの時は治癒魔法じゃなくて、普通に処置しただけです」

「あれ、使わなかったんだ?」

「おまえは頭を使え東雲」


 すかさず牙神くんからツッコミが入る。


「よく思い返してみろ。〝今確信に変わった〟と市井自身が言ってただろ。つまり自分で自分を治癒したのはおそらく偶然だ。そして東雲を治癒したのもな」

「私?」

「あー……なるほど。そういうことか」


 まだよくわかっていない私をよそに、戸瀬さんは何かわかったように声を上げた。


「いいか。まず市井は自覚なしに偶然自分を治癒した」

「うん」

「次に外出先で東雲とばったり出会いここでも偶然東雲を治癒した」

「いや……でも私、全然体調悪くなかったけど……」

「それは単なる個人差だろうな。市井は最初から。戸瀬は部屋についてから。僕は最初からうっすらしんどかったが酷くなったのは夜になってからだ。東雲は早期に治癒を受けたお陰で発症しなかった」

「なる……ほど?」

「しかし次に会った者には発動しなかった。おそらく魔力が尽きていたか単純に自覚していなかったから偶然発動しなかったというのも有り得る。とにかく簡単にまとめるとこういうことだろう」

「そう……なのかなぁ……」

「逆に東雲に訊くがこれ以外になにか考えられるのか?」

「今のところは……ないかも」


 私がそう言うと、牙神くんは勝ち誇ったように眼鏡をクイッと上げた。


「うし、少年の疑問もスッキリしたところで、改めて能力の話だな」



 こうして牙神くんから端を発した転移召喚問題は、

〝まだ自分の意志で魔法を使えなかった千尋が知らない間に魔法を使っていた〟

 ということで決着した……のだが、私の中に残るこのモヤモヤはなんだろう。

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