第187話 アイムール副支配人 その2
エイハーザヤさんは片方の眉をピクリと持ち上げて私の顔を見た。
「あ、いえ、勇者って言っても、すぐに剥奪されましたから……」
「左様でございましたか。東雲様が勇者……」
エイハーザヤさんは口元に手を当てると、私の全身を興味深そうに見回してきた。
「……ああ、失礼。ところで、なぜそのような旗袍を?」
「な、成り行きです……」
なんというか、黄さん以外、誰もこの服にツッコミを入れてこなかったから、すごく恥ずかしい。
「――ですが、申し訳ございません。先ほども申しましたが、当店は完全予約制。何年も前から、この日を楽しみにされていた方がいらっしゃる店。たとえ勇者様であろうと、当店の秩序を乱すことはご遠慮いただけますか」
「あのなあ、話くらい……」
「おまえは黙ってろ。あと出入り禁止な」
エイハーザヤさんが黄さんに向かってピシャリと釘を刺す。
黄さんは所在無げに、頭を掻くと「店の前で頭を掻くな」と追い打ちを食らっていた。
結局、魔王に会う前に門前払いされてしまった。
たしかに不当な手順を踏んで、半ば侵入するような形でアイムールにやってきたけど、今はそんなことを言っている状況じゃない。
なんとしてでもここで魔王の力を借りなければ、そもそもここでご飯を食べることすらできなくなってしまう。
だからこそ、私は一歩前に出た。
「魔王ビアーゼボに会わせてください」
私がその言葉を口にした途端、場の空気が張り詰めたように一変する。
「……当店支配にんになにか御用でも」
「丹梅国に、危機が迫っています」
静かな声でそう告げる。
「危機……?」
「はい、じつは――」
私は黙っていても仕方がないと思い、ここまでに至るまでの全てを目の前のエイハーザヤさんに話した。
彼女は腕組みをし、片足に体重を預けつつも静かに話を聞いてくれていたのだが――
「……もう、よろしいでしょうか?」
「え?」
エイハーザヤさんが痺れを切らしたように手を挙げ、忌々しそうに黄さんを睨みつける。
「東雲様が、なにを仰りたいかはわかりました」
「では……!」
「早々にお引き取りください。わたくしも、いつまでもここで話をしているわけには参りません。準備がございますので」
「で、でも、さっきわかったって……」
「はい。まるで、その出来事を体験してきたかのような、真に迫る語り口調でした」
「語り口調……」
「しかし、当店では現在、吟遊詩人を雇うつもりはございません」
「吟遊って……今のは本当のことで……! それに、黄龍が……!」
「本当のこと……?」
ここでエイハーザヤさんは初めて顔を歪め、私に対し不快感を露わにしてきた。
「……どうやら、東雲様ご本人が、現実と虚構の区別がついていないご様子」
「いえ、だから実際に黄龍が――」
「わたくし自身、この国の歴史については、それなりに知っているつもりです。ですが、そういった神は一切、記録にも、伝承にも存在いたしません」
「そ、そんなはずは……!」
「二度は言いません。お引き取りください。……でなければ、実力で排除させていただきます」




