第186話 アイムール副支配人 その1
私たちを載せた魔導昇降機が音もなく上昇する。
あいにく機内に窓がないため、外の様子をうかがい知ることはできないが、乗っている時間からして、すでに相当な高さだ。
やがて――
〝チ――ン〟
鈴の音が鳴り昇降機の動きが止まる。
それから間を空けることなく扉が開くと、そこには――
「あ、やべっ」
黄さんが私の思考を遮るように小さく声を漏らす。
そこにいたのは、私たちに恭しく頭を下げる銀髪の……どっちだろう。
男性か、女性か。
女性にしてはあまりにガタイがよく、男性にしてはいささか脚が内股に寄っている気がする。
髪はそこまで長くはないものの、それ自体に艶があり、手入れされているのはわかった。
「よくも、いらっしゃいました。黄様」
低くはあるが、それは明らかに女性の声だった。
彼女は頭を上げると、張り付いたような笑顔を黄さんに向ける。
褐色の肌に翠色の瞳。
銀の髪は肩までのワンレングスで、片方を耳に引っかけている。
そして黒い詰襟の給仕服の袖には、金糸の龍が絡みつくように刺繍されていた。
男装の麗人。
それが私が彼女に抱いた第一印象だった。
「よお、エイハーザヤ。……まさか、おまえがいるとはな」
黄さんがそう言って片手で顔を覆う。
「本日のご用件は」
「飯屋に来てやることといえば、決まってんだろ。食いに来たんだよ、飯を」
「めし……ふむ、なるほど。ですが、黄様が飯を食いに来たのは〝アイムール〟ではなく〝全聚楼〟では?」
「はぁ……もう知ってんのか……」
「なぜ警備員にあのような嘘を?」
「だって、アイムールに行くなんて言ってたら、入り口で止められるだろ?」
「それでも通常、魔導昇降機では最上階に到達することはできません」
「方法はどなたから?」
「まあ、誰でもいいじゃねえか」
「あ……っ」
そういえば、と。
私たちがヤグルシのエレベーターに乗った時のことを思い出す。
黄さんは最上階らしきボタンではなく、いくつかのボタンを景気よく押していた。
てっきり彼の気が狂ったのかと思ったが、なるほど、今の問答で腑に落ちた。
アイムールにたどり着くには、それなりの手順が必要なのだろう。
「――って、あれ? ということは、ここは全聚楼じゃなくて――」
そう呟くと、エイハーザヤと呼ばれた女性が、今度は私に向かって頭を下げてきた。
「はじめまして。わたくし〝アイムール〟にて副支配人を務めております〝エイハーザヤ〟と、申します。以後、お見知りおきを……」
粛々と行われる流麗な所作に、口を開けて固まっていると、紅月が肘で私の横腹を突いて来た。
「あ、そうだ。私は東雲真緒です。冒険者、やってます。いちおう。……で、横にいるのは紅月雷亜。えっと、私の……使用人……みたいなやつです」
「ちょっと」
紅月がすかさず、不服そうな声をあげるが、すぐにエイハーザヤさんの声にかき消される。
「東雲様、紅月様、そして黄」
「俺だけ呼び捨てかよ……」
「突然で誠に申し訳ございませんが、お引き取りを。当店は完全予約制でございます。ご来店の際は――」
「んなかたいこと言うなって。せっかくこうして、勇者二人で来てんだからさ」
「勇者……?」




