第185話 食都ナティーログ その2
そんなことを話しながら私たちはヤグルシへと到着した。
やはりというか、なんというか……それは想像以上に巨大だった。
思わず首を反らす。
毎日このタワーを十秒見上げるだけで姿勢がよくなりそうだ。
装飾は何もないが、その存在感だけで、
ナティーログの〝核〟であることは明白だった。
『――失礼、ご予約はございますでしょうか』
不意に声をかけられる。
見ると、清潔感のある髪型に、黒の詰襟に金糸の縁取りが入った制服を着こなしたボーイさんが、爽やかな笑顔とともに話しかけてきていた。
『え、えーっと、私たちは……』
そうか。こんなに格式のあるレストランが集まった街の、その頂点がここ。
そりゃ予約も必要になるよね。
まずい。何も考えてなかった。なんて焦っていると――
『黄だ。〝全聚楼〟でこの嬢ちゃんたちと飯食いに来た』
黄さんが私とボーイさんの間に割って入るように言った。
……って、あれ? 全聚楼?
私たちはビアーゼボに会いに来たんだから、てっきりアイムールに行くものだと思ってたけど、そこにビアーゼボはいるのだろうか。
『これはこれは、黄様。いつもお世話になっております』
ボーイさんは少し驚いたような顔をしていたが、すぐに黄さんに笑顔を返す。
どうやら黄さんはここの常連のようだ。
『入ってもいいか?』
『ええ、ええ。問題ございません。では、どうぞ、中へ……』
ボーイさんはそう言うと黒く分厚い扉を開け、私たちを中へと招き入れた。
中は薄暗いようでいて、しっかりと足元は確認できるほどの明るさ。
通路の先には、エレベーターのような空間が、誘蛾灯のような幻想的な光を放ち、今か今かと私たちを待ち構えているように見えた。
まるであそこに誘い込まれたら、このまま出れなくなってしまうのでは……なんてことを考えていると――
『ごゆるりと』
背後から声が響いた。
見ると、ボーイさんがものすごく綺麗な角度でお辞儀をしながら、ゆっくりと扉を閉めているところだった。
「いくわよ、真緒」
先を歩く紅月が、現実へ戻すように声をかけてくる。
私は早足でそれに追いつくと、小声で黄さんに尋ねた。
「……なんでアイムールじゃなくて、全聚楼なんですか?」
「なあに。今にわかる」




