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第184話 食都ナティーログ その1


 鳳凰の祠を出てから、しばらく歩いた頃。

 ようやく前を歩く黄さんの足が止まった。


 おそらくナティーログに着いたのだろうが――


 瑞饗を差し置いて〝食都〟と呼ばれるほどの場所だから、てっきり人々の熱気も活気も、それ以上にすごいのだろうと勝手に思っていた。

 しかし、はじめて瑞饗に来た時のように、空気から、匂いから、何かが劇的に変わったという印象はない。


 むしろあっちよりもかなり控えめで、街並みは理路整然としており、静謐で厳かで……それに、ここにいる人たちは、瑞饗の人と比べて誰一人として身なりが崩れていない。

 年齢も、性別も、国籍も、身に着けている物もまちまちなのに、全員が例外なく整っている。

 布の質。靴の光沢。装身具の輝き。

 それらは派手さこそないが、安さも感じない。


 それになにより、あの大きなタワー。

 ナティーログへ来るまでにも見えていたが、こうして領内に入って改めて見ても、かなりの高さだ。

 あの下から見上げようとしたら首でも痛めてしまいそうだ。


「おう、初めてか? ナティーログに来るのは」


 思わず足を止めてしまったからだろうか。

 黄さんが私に話しかけてくる。

 私は再び足を動かしながら、黄さんの後について行く。


「は、はい。食都って言われてるから、てっきり……」

「そうか。まぁ、わかりやすく言うなら、瑞饗(あっち)がB級グルメ主体で、こっちがA級……所謂一流レストランが集まってるような場所だな」

「一流……」

「そうだ。丹梅国の料理だけじゃなく、世界各国の料理が本場レベルで食べられる。街の雰囲気はこんな感じだが、このナティーログだけで、丹梅国の流通額の六割以上は、この街を通る」

「は、半分以上……ですか!?」

「食の中心地にして、経済の中心地だ。いわば、この国の心臓部みてえなもんだ。ちなみにここには、飲食以外の施設はほとんどねえ」

「じゃあ、食べ物だけでそんなに……って、居住区とかもないんですか?」

「ああ、目に見える建物は全部飲食店だ。で、あの塔もな」


 私の考えていることを見透かしているように黄さんが指をさす。


「気にすんな。誰だって気になる。特に、初めてここに来たやつなんかはな」


 黄さんに言われて、周りを見てみると、塔を珍しがっている私が珍しいのか、時折クスクスといった笑い声が聞こえてきた。

 田舎者だとか思われてるのだろうか。


「……あれは?」

「ここナティーログでもVIP中のVIPしか入れねえ塔〝ヤグルシ〟だ」

「やぐるし……あそこも飲食店なんですよね?」

「だな。けど、あの塔ひとつで一軒の店ってわけじゃねえ。階ごとに入ってる店は違う。……で、ヤグルシの最上階にある〝アイムール〟という店で総料理長をやっているのが、魔王ビアーゼボだな」

「ということは、これから私たちはあの頂上へ―」

「丹梅国のトップにして、最高級料理店の総料理長。……それが、魔王ビアーゼボの正体なんですね」


 紅月がまとめると、黄さんが頷く。


 それにしても、アスモデウスが超人気売れっ子作家兼風俗の王で、ビアーゼボが丹梅国の最高級料理店の料理人。

 ふたりともなかなか個性的だとは思うけど、魔王にしてはいささか人間社会に染まりすぎではないだろうか。


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