第183話 黄の意図
「……は?」
意味が全くわからなかった。
この差し迫った状況で、なぜ料理の大会が出てくるのか。
そういえば――
今でこそ、なんか真面目に現状を話してくれているけど、瑞饗で初めて会った黄さんは、どこか飄々とした男性だった。
この空気に耐えきれず……もしくは、気分をとりあえずリセットするために、彼なりのジョークでも飛ばしてくれたのだろうか。
まあ、私としてもこういうどんよりとした空気はあまり好きじゃないし、そういう冗談を言いたくなる時はあるけど……。
「は……ははは……おもしろい……」
いちおう笑ってみるか。
たぶん顔が引き攣ってると思うけど――
「失礼ですが、今冗談を言っている場合ではないのでは?」
紅月がピシリと、キツめの口調で言う。
黄さんの気持ちもわかるけど、これに関しては彼女が正しい。
今はふざけている場合じゃない。
「俺もべつに、冗談を言ってるわけじゃねえんだけどな……」
黄さんがそう言うと、紅月は私に聞こえる程度に小さく舌打ちをして、立ち上がった。
「そうですか。では、話はここまでということですね」
目は会わせない。
紅月は私の名前を呼び、祠の出口へ向かって歩き始めた。
「いま呂さんがおこなっているのは、謂わば単なる時間稼ぎだ」
黄さんが引き止めるように彼女の背中に言葉を投げかける。
「……時間稼ぎですか? なんの?」
紅月は振り返ることなく答える。
「ビアーゼボに協力を取り付けるまでのな」
「どういうことですか」
「黄龍には呂さんじゃ敵わない。なら、どうするか。……そりゃ、現在の丹梅国のトップの魔王様に、助けてもらうしかねえって話になるだろ?」
「それは……」
「ちょっと待ってください」
紅月が足元に視線を落とし、黄さんが私に視線を戻す。
黄龍は呂さんでも倒せないのは理解した。
それで魔王に助けを求めるのもわかった。
……けど、協力は本当に可能なのだろうか?
もっさんの話では、魔王が大っぴらに力を使えば天使に睨まれると聞いた。
実際、そのせいでラファエルとかいう天使を二度も呼び寄せている。
そんな状況で果たして、魔王が協力してくれるかどうか――
「どうした東雲」
「えっと……」
話を中断させておいて、急に黙り込んでしまった私を黄さんが怪訝そうに見る。
そういえば、もっさんから口止めされてないけど、天使との関係について話していいんだっけ。……よくわからない。
けど、今回に限って言えば、論点はそこじゃない。
「……魔王に協力を依頼するのは理解出来ました。なら、直接魔王に嘆願すればいいのでは? なぜ、料理大会に出場するとかいう話になるのでしょう」
私がそう尋ねると、黄さんは少し顎に手を当てて考えるような素振りを見せ――
「そうだな。百聞は一見に如かず。……東雲の国でもこう言うんだろ?」
「え? は、はい……」
「俺があれこれ言うより、実際見るほうが早い」
黄さんは自身の膝をポンと叩くと、すっくと立ちあがった。
「いくぞ」
「……え? いくって……どこにですか?」
「決まってるだろ。魔王の自治領、食都ナティーログだ」




