第180話 黄龍の残滓
「――はッ!?」
目を開けるとそこは、どこか見覚えのある場所だった。
……いや、そんなことよりも、これはどういうことだ。
痛みも倦怠感も体の痺れもまったくない。
両手を見てみると、いつもの自分の手。
試しに深呼吸をしてみるも、先ほどまで感じていた焦げ臭さもない。
「そうだ……! フェニ子と紅月!」
私はそんなことを大声で言いながら上体を起こす。
そして、この部屋の光景が目に入ってくる。
そうだ。ここは――
竹で編まれた蓆に土製の竈。
ちゃぶ台の上にぽつんと置いてある古びた茶器に、割れた磁器の茶碗。
それになにより、この部屋の中央にある真紅の宝玉。
「鳳凰の……祠……」
「起きたわね、真緒」
「ギャアッ!?」
ぬっと紅月が私の視界に割り込んでくる。
そうだ。
たしか紅月は私の目の前で――
「なによ、人の顔を見るなり……」
「いや、だって、あんた……あのとき、間違いなく八つ裂きに……!」
そう指摘しようとして、脳裏にあのときの惨状がフラッシュバックのように反芻される。
途端に胃酸が逆流し、口の中がすっぱいもので埋め尽くされる。
そして――
「うわ、きたない……! なにをしているのよ、貴女は……」
「ご、ごめん……」
紅月は「あーあ」と呟きながら、私がもどしたものを雑巾片手にテキパキと片づけて――
……いるように見えた。
よく見ると、彼女の手は微かに震えていた。
無理もない。あんなことがあったから――あった?
紅月のこの反応を見るに、やはりあれは現実だったのだろう。
「じゃあ、なんであんた、生きて……」
紅月は手を止めず、無言のまま祠の入口へと視線を投げた。
私がその視線をゆっくり辿っていくと、そこには――
「おう、東雲。目ぇ覚めたか」
「黄……さん……?」
丹梅国の勇者である黄さんがそこに立っていた。
「私も気が付いたら、ここで寝ていたわ。詳しい話は貴女が起きてから……って、言われていたのよ」
「私が起きて……って、そうだ! フェニ子は!?」
「フェニ子は――」
紅月が、今度は黄さんとは逆の方向を見る。
そこには布団にくるまり、小さく寝息を立てているフェニ子がいた。
いくら不死とはいえ、あのまま黄龍に吸収されていたら……なんて考えていたから――
「よ、よかった……」
ひとまず全員が無事だったのを確認すると、私は胸をなでおろした……のだが、ここにきて、色々な疑問が沸き起こってくる。
「そろそろ、いいか……」
黄さんは蓆の上に胡坐をかいて座ると、置かれていた茶器から割れた茶碗に熱そうな液体を注ぎ入れ、それを注意深く飲んだ。
「飲むか? 丹梅国の普洱茶だ。……胃にやさしいぞ」
「だ、大丈夫です。……若干、こぼれてるし……」
「そうか……」
私が断ると黄さんはズズズと茶を飲み、ちゃぶ台の上に置いた。
「……ふぅ、さて、さっそく本題へ移ろうか。おまえさんらが戦っていた黄龍だがな、あいつはもう、消えた」
「――へ?」




