第178話 全滅
〝森羅雷槍〟
「しんら……?」
私がその言葉をなぞるよりも先に、遠雷のようなものが鼓膜を揺らす。
そして次の瞬間、まるで連鎖反応のように遠くのほうから足元へ振動が伝わり、雲が鳴った。
〝――ズン〟
見間違いではない。
突き上げているのだ。雷が。雲から。
それも無数の、まるで槍のように。
そしてそれらは乾いた破裂音を立てながら、物凄い速度で私たちに肉薄している。
「にげ――」
私が二人にそう告げる間もなく、足元で光が弾ける。
見ると、地面から生えてきた雷は、私の足裏を貫通し、足の甲を突き破っていた。
雷は逃げ場を塞ぐように、避ける隙間すら与えず、私たちの立っていた一帯を、下から丸ごと貫いた。
瞬間、私の全身を途轍もない衝撃が貫く。
目の前が真っ白になり、小刻みな痙攣が止まらない。
脚はもはや力を失っているのに、倒れることすら許されない。
息をするのもままならない。
かろうじて軽く息を吐くと、肉の焼ける嫌な臭いが鼻腔をついた。
少し遅れて、肉と衣服と空気が、同時に焼ける音がした。
ただ、足から全身を焼かれる感覚だけが、はっきりと残っている。
そして――
視界の端で、足だけを刺し貫かれた私に対して、全身がそうなっている紅月が見えた。
やがて、フェニ子の叫び声が、残響のように遠くで歪んだ。
――ああ。
ここで、ようやく理解する。
これは、戦いなどではなかったのだと。
いくらローカルの神とはいえ、出来損ないとはいえ、神は神なのだ。
立ち向かおうとした時点で、私たちは詰んでいたのだ。
そもそも黄龍は、こちらを相手として認識してすらいない。
ただ部屋に入ってきた鬱陶しい虫を、排除しているだけ。
私の身体が、地面に叩きつけられる。
肺から焦げた空気が抜け、意識が、どろりと傾ぐ。
指先の感覚までもが、今、完全に消えた。
これで終わりなんだ。
私たちの旅はここで終わる。
悔いはあっただろうか。
満足して死ねるのだろうか。
わからない。
わからない。
けど、やりたいことや、託されたことはまだあった。
もっさん。フェニ子。千尋。雨井。……紅月。
走馬灯でも見ているかのように、皆の顔が浮かんでくる。
「――聞こえるか」
聞こえるよ。
そう答えようとするが、唇がかすかに震えるだけ。
喉はもう声を出せる状態じゃない。
「聞こえておるか、東雲よ」
それにしても、走馬灯にしてはハッキリと私に語り掛けてくる。
……いや、ちがう。
たしかにこの声は私に届いている。
「時間がない。この声が聞こえている体で話させてもらう。我は螭龍だ」




