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第177話 バチバチに煽る紅月


「いえ、ですから、なぜ今なのでしょう。軽んじられたのは、今よりも遥か昔の事ですよね。その時に、魔王に思い知らせようと息を巻く……なら、わかりますが――」


 紅月の口調は相変わらず丁寧なものではあったが、どこか黄龍を小馬鹿にしているようなニュアンスを含んでいた。


「黄龍様の仰ったように、遍く人々に神の威光を示すには、遅すぎたのではないかと。フェニ子が言った通り、瑞饗の人間の全員が、とまでは言いませんが、現在の魔王の統治に不満を持っている方は、今のところ見当たりませんでした。……であれば、黄龍様の行おうとしている行為は――」


 紅月の顔にほんの少しだけ間を置くと、改めて黄龍に向かって言い放った。


「既に終わっている(・・・・・・)神が、ちっぽけな自尊心を守るためにしか映らない。それは、現在の(・・・)瑞饗の民を、いたずらに混乱へと追いやるだけの行為ではないかと」


 黄龍からの反論はない。

 しかしこの沈黙は明らかに怒気を孕んでいる。


「神魔大戦終結当時も生きていた人たちが、現在、何人存命なのでしょうか。それ以外の方々からしてみれば……誤解を恐れずに言うならば、あなたは既に取って代わられた神(・・・・・・・・・)です。その神が今さら出しゃばったとしても、民は困惑するだけでしょう」


 どうしよう。紅月の言葉が止まらない。

 彼女はただひとつの事象に対して、色々な角度からの無礼な言い方で黄龍を責め立てている。

 なぜかはわからないけど、紅月も紅月で相当、黄龍に鬱憤が溜まっていたようだ。


「本当に、神としての在り様を大事になさるのなら、そのうえで瑞饗の人間のことをお考えなら、このまま身を引いたほうが潔いのではないかと」

「……なるほど」


 今まで黙って聞いていた黄龍が()を開く。


「赤髪のあなた……あなたの主張はわかります。ただ、あなたが今、なにをなさっているのか、その自覚はございますか?」

「……さあ、どうなんでしょうね」


 黄龍側の圧迫感のある質問に、紅月は挑発するような視線で答える。


「あなたは今、わたくしが排除したくてたまらない、魔王ビアーゼボと同じようなことをしているのです。そんなあなたがどのような目に遭ったとしても――」

「既にうちの東雲に攻撃を仕掛けているのに、今さらそんな脅しが通用するとでも? 対応が鈍いのは、数百年経っても変わらないみたいですね」

「なっ……!?」

「そもそも四神が四象へと貶められた原因は、魔王ではなく、天使側のほうにあるのでは? それを数百年もの間、逆恨みし続けるという執念は称賛に値しますが、もう少し他の事の、建設的な物事に労力を割けたのでは?」


 紅月がそう言った途端、今まで青かった空も、白かった雲も、すべて鈍色へと変色していった。


「遊びは終わりです。腫瘍(ソレ)がわたくしの能力を打ち消すのなら、圧倒的な力で叩き潰すだけ」


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