第175話 嗜虐的黄龍
「なかなか言うじゃない、真緒」
「ま、親愛的……!」
ギュッと狭まっていた視界が、途端に開けてくる。
背後から聞こえてくる二人の声により、血が上っていた私の頭を冷やしてくる。
「え……っと……」
またフェニ子のことを要らないと言われカッとなってしまったが、よくよく考えてみたら、神となんてどうやって戦えばいいのだ。
実際、フェニ子との戦いだって、もっさんの手助けがなければ、戦いにすらなっていなかった。
「でもまあ、せっかくあそこまで大見得切ったんだから、それなりの――」
私はすぐさま異変に気付き閉口する。
体が動かない。
首から下はもちろん、腕も、足指の一本すら動かせなくなっている。
それなのに、首から上だけは自由で、まばたきすら普通に出来てしまう。
そのくせ、体の感覚だけはあるから、まるで周囲の空間ごと凍結させられたような拘束感に囚われている。
「東雲さん、あなたが珍しい術を使えるのは存じております。ですので、こうして、先んじて手を打たせていただきました」
「そ、そうですか……。ちなみに、なんで頭は普通に動かせるんでしょう……?」
「そのほうが、いたぶり甲斐があるでしょう?」
「え」
「体は動かせず、痛覚だけを残された状態で、徐々に体が潰されていく感覚……神に逆らった愚行、その身に感じながら狂いなさい」
先ほど黄龍がフェニ子を呑み込もうとした時のように、ゆらりと黄龍の巨体が私の頭上を覆う。
「親愛的!」
フェニ子が私を呼ぶ声。
それが聞こえてきたと同時に――
「……あっ」
動く。体が動く。
今まで動かなかったのが嘘だったかのように、なんの問題もなく、自由に全身を動かせる。
私は急いでステータス・オープンの画面を切り替えると、今度は自身の速度を上げた。
ゆっくりと倒れ込んでくる黄龍に背を向け、未だに慣れていない雲の上で、両手両足を動かし、必死に逃げる。
やがて――
〝ザブ……ン……!〟
背後からまるで鯨が水面で飛び上がったような音が聞こえてくる。
振り返ると、その音とは比べ物にならないほど、巨大な水――雲の柱が出来ていた。
「親愛的! 大丈夫なのじゃ!?」
そう言って、フェニ子が私の足元に駆け寄ってくる。
「フェニ子……今の……」
「う、うむ。なんだかようわからんが、妾にも出来たようじゃ」
「そ、そっか……」
別れたとはいえ、フェニ子も元は鳳凰の一部。
こういう能力も使えるということだろうか。
「ありがとう、フェニ子。助かったよ、ほんと……」
私が礼を言ってフェニ子の頭を撫でると、彼女は気持ちよさそうに目を細めた。




