第174話 決裂激突 vs黄龍
「……ふ。……ふふふ」
黄龍がまた空気を震わせながら、自嘲気味に笑っていたが――
「ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ……」
「ちょ……っ」
こちらの言葉が、何か決定的な逆鱗に触れたのか。
黄龍の笑い声は空気だけでなく、私の体を芯から揺さぶるほどに大きなものへと変わっていった。
「……他の三柱にも言われました」
「え?」
黄龍が滔々と言葉を紡ぎ始めるが、空気は依然震えたまま。
「わたくしは変わってしまったと」
「そう……なんですか……」
「ですが、このとおり、わたくしはわたくしのまま。なんの変化もありません。……ですが、青竜も、白虎も、玄武も、みな一様に、鳳凰を鳳凰と認めなかった」
「だから、他の三柱を吸収した」
紅月がトドメだと言わんばかりに告げる。
「いえ、わたくしの目的はあくまでも魔王の排除。それについては一点の曇りもありません。しかし――」
突然、黄龍の体が鳴動を始める。
立っていられないほどの揺れが私たちを襲い、やがてそれは姿を現した。
いや、正しくは現れてはいなかったのだ。
黄龍の途轍もなく長い体の先――
その先が、頭が、なかったのだ。
首の断面は、血も肉もなく、ただの空白。
黄龍が有しているのは胴体のみ。
まるで頭部を切り落とされた蛇が、暴れることも、藻掻くこともせず、ただ冷静に、知的に、神格を保ったままそこに存在している。
その異様な姿に、在り様に、私は恐怖を覚えた。
「このとおり、わたくしは完全な黄龍になることはできなかった。これでは――」
黄龍はそこまで言って一瞬言葉を詰まらせたが、すぐに続ける。
「これではわたくしが贋物で……残響種として切り落としたそれが、本物のようではありませんか」
「ち、違う……! それは違うのじゃ鳳凰様! 妾たちに上も下もない! 妾たちはふたつで――」
「穢らわ……しい……!」
「……へ?」
「悍ましい、卑しい、呪わしい、禍々しい、忌々しい……恨めしい! あなたのような下等な、生物以下の汚物が、このわたくしと同列だなんて、想像するだけで……想像するだけで……想……像……する……だけで……ああっ! キモチガワルイ!」
「真緒! 速度!」
瞬間、紅月の怒声により、現実に揺り戻される。
その言葉の意図を理解するよりも早く、私の指は、紅月の速度値を上げていた。
そして首のない黄龍が、頭からフェニ子を呑み込むべく、ぬるりと脈動する。
しかし――
〝――ザッ〟
紅月がものすごい速さでフェニ子の体を抱きかかえて、一気にこの場から離脱する。
「……ふぅ、二度は言いません。そして、これはお願いでもありません。それを置いて去りなさい」
「嫌です」
私が答える。
断固たる意志で、黄龍の要求を拒絶する。
「邪魔を……しようというのですね……神たる黄龍の……」
「いいえ、私たちの旅の邪魔をしようとしているのは、あなたです。黄龍様」
「減らず口を……」
「それに、フェニ子はもう私たちの仲間です。フェニ子を捨てたあなたに、フェニ子をどうにかする権利はありません」
「ならば、それの為に死を選ぶと」
「死にはしません。私たちは必ず、生きて冒険を続けます。そのためにここで――ケリをつけます」




