第173話 フェニ子の勇気
四象は既に合一して、黄龍になっている。
それなのに、呂さんからは〝魔王ビアーゼボは死んだ〟みたいな話は一切聞かなかった。
それに仮に、黄龍と魔王ビアーゼボが一戦交えていたのなら、丹梅国にいる人たちが知らなかったとは思えない。
とりわけ梁さんが、四象について調べていた私たちに話さなかったとは思えない。
「……でも、なんで……」
そう。黄龍は、フェニ子から聞いた記憶の中だけでなく、今も魔王ビアーゼボを憎んでいる。
それなのに、なぜ黄龍は未だにアクションを起こしていないのか。
「それはあなたが――まだ、黄龍として完成していないからでは?」
そう言っている紅月の額には汗が滲み出ていた。
彼女はそれを黄龍に悟られないように、まるで虚勢でも張るかのように、口角を上げ、片足に重心を置いて、腕まで組んでいる。
「……完成って、どういうこと?」
目の前の黄龍は龍であり、決して鳳凰には見えない。
それでも完成していないのだとしたら、一体何をもって完成となるのか。
「そもそもの話、なぜ私たちは、こんなところにいると思うのかしら」
「え? そういえば……たしかに……」
改めてそう問われ、考える。
「最初はなんとなく、四つの祠を巡り終えたから、それを労うためだと思ってたけど……そんな雰囲気じゃなさそうだし――」
「妾を――」
ここにきて、ようやくフェニ子が声をあげる。
彼女は服の裾を力いっぱい、ぎゅうっと掴みながら顔を上げ、黄龍を睨みつけていた。
「妾を、取り込もうと……しておるのじゃ……!」
「誰が、口を開いていいと言いましたか」
黄龍がすかさず、冷静な口調でフェニ子に釘を刺しにくる。
フェニ子は一瞬、その言葉にたじろいだように見えたが、やがて服の裾から手を放して言う。
「わ、妾は……妾は、もう……!」
「なんですか。言いたいことがあるのなら、はっきり言葉に――」
「フェニ子を……? でも、他でもない黄龍様が、自分からフェニ子を切り離したのに……」
このままではまたやり込められてしまう。
そう考えた私は、直前のフェニ子の言葉について言及した。
「そうじゃ……! 妾は鳳凰様から切り離された、不要なモノ。忌むべき存在じゃ。じゃが、黄龍に戻るには、妾の存在が必要不可欠」
「必要不可欠って……」
「神魔大戦が終結し、鳳凰様はその余波を受け、残響種になりかけておった。そこで鳳凰様は病巣を切除する体で、ご自身の体を病巣ごと切除した」
「それで、その切り離されたほうに意識が宿って、フェニ子になったんだよね?」
フェニ子が嚥下するようにゆっくり頷く。
「じゃが、鳳凰様はそこで大切な物さえも、切り捨ててしまったのじゃ」
「それって――」
「人間を、他者を慮る心、じゃ」
「心……あっ、だから急に鳳凰の性格が変わったように見えたって……!」
「うむ。これに関しては完全に不可抗力だったのじゃろう。鳳凰様も、意図して切り離したわけではない。結果として、切り離してしまったのじゃ」




