第172話 勇気があり誇り高い黄龍
「簡単な話ですよ、東雲さん」
今まで黙り込んでいた黄龍が、優しい口調で語りかけてくる。
「へ?」
「我々は、元の存在に戻っただけ。そこに危険はありません」
「ええっと……?」
「四神は、元々は黄龍という一柱の神。我々は消滅したのではなく、合一を果たした。いわば、枝分かれしていた流れが、本流へ戻っただけのこと」
「そっか。だから、守護者たちに役割がバトンタッチしなかったんですね……」
「そういうことです。……しかし――」
黄龍は朗らかな声で対応していたが、急に声のトーンを一段階下げてくる。
「まさか、あの三柱が斯様な保険をかけていようとは……」
「保険……ですか?」
「はい。わたくしが考えるに、おそらく、他三柱は合一を望んでいなかったのではと」
「……え、そうなんですか?」
「ええ。吸収する際は随分と手間をかけさせられました」
「て、手間……?!」
それはつまり、鳳凰は無理やりに――
「はい。突然現れた魔王が国の全権を任される。それだけは瑞饗を守護する神として、どうしても阻止しなければいけなかった。しかし、事も有ろうに他三柱は様子見することを選んだのです」
「それは……魔王ビアーゼボの力が強大だったから、ですよね?」
「そうですね。神魔大戦の敗北者とはいえ、魔王ビアーゼボの力はとても強大でした。しかし、それは前提条件として、力を四分割した四神と比べて……というだけのこと。我々が再び黄龍となってしまえば、魔王ビアーゼボなど取るに足らないただの〝蠅〟……だのに――」
〝ゴゴゴゴゴゴゴ〟
今度は黄龍が笑っていないのに、大気が震え始める。
彼の……彼女の怒りが、皮膚の裏側を撫でるように伝わってくる。
「他三柱は静観を決め込んだ。彼らは臆したのです。強大な敵を前に、立ち上がることを選ばなかった。そんなものは神とは言えない。言ってはいけない」
「だから、取り込んだ」
紅月が再び、黄龍の言葉を遮るように発言する。
そして――今度はわかる。
この感覚、黄龍は間違いなく紅月を疎んじている。彼女に対してイラついている。
「しかし、ここでひとつの疑問点が浮かび上がってきますね」
黄龍は紅月のその勿体ぶった話し方に何も口を挟まない。
「神魔大戦が終結し、その戦争の余波をその身に受け、残響種の元凶ごと切除し国外へと追放したのは、もう何百年も昔の話。同様にあなたが他の三柱を取り込んだのも、今の話を聞く限り、何百年も昔の話。……でしたらなぜ、今も魔王ビアーゼボは存在しているのでしょうか」
「……あっ」
「そう。あなたは既に何百年も前に黄龍と成っているはず。他三柱の神を臆病者だとなじるほど勇敢で誇り高いあなたが、なぜこの間に、魔王ビアーゼボ相手に攻勢をかけなかったのでしょうか」




