第171話 ふと思い出す
「つぎは白虎祠での記憶です。まずは鳳凰の性格の変化について。白虎によると、あなたの考えは、ある出来事を境に一変します」
「出来事ですか」
「はい。先ほどの話にもありました、残響種を切り離したことに起因しています」
「つまりわたくしは、それを切除したことにより、自身の有り様まで変わってしまったと」
「はい。人間を〝守護し、慈しむ存在〟から〝管理し、運用する存在〟へ。白虎祠でフェニ子はそう話していました」
「なるほど」
黄龍の目は見えない。
それどころか、私たちは依然として顔すらも確認できていない。
しかし、なぜだかわかる。
黄龍は今、フェニ子に対して見下すような視線を向けていることが。
「わたくしとしては、それを変化とは考えておりません。当然の帰結」
「つまり、最初からそのつもりであったと?」
「……しかし、それはあくまで白虎の記憶。彼がそう感じたのであれば、それが白虎にとっての真実なのでしょう」
含みを残した、曖昧な言い方だった。
おそらくこうして指摘されるまで、本当に黄龍に自覚はなかったのだろう。
「そんななか、あなたがた四神はそこではじめて、魔王ビアーゼボと対峙した。突如現れた魔王が、この国の統治を担う。四神として、承服できるはずがなかったのでは?」
「もちろんです。神ならともかく、やって来たのは魔王。神魔大戦における敗北者。そのうえ、わたくしたちは〝神〟から〝象徴〟へと貶められた。この行いを野蛮であると……傲慢であるとせず、なんとしましょう。もはや看過できるわけもありません。ですから――」
「ですから、あなたは他の三柱を取り込み、黄龍となり、魔王ビアーゼボに……そして、その背後にいる天使たちを、やがては神をも打倒するつもりでいた」
紅月の今までとは違った、挑発するような物言いに黄龍は黙ってしまう。
先ほどのフェニ子の時とは違い、今度はまったく、その感情を汲み取れない。
しかし、それでも、紅月は続ける。
「玄武祠で見た記憶です。魔王ビアーゼボを一目見て、武力で敵わないと察した鳳凰は、黄龍へと、元の存在に回帰することを決め、実行に移した。そして今、あなたは黄龍として私たちの目の前にいる」
「……ちょっと、いい?」
紅月の話を聞いていた私は、ここで声をあげた。
これはここで気にするような疑問ではないのはわかっている。
それは些細な違和感のはずだった。
けれど、なぜかどうしても見過ごせなかった。
鳳凰が他の三柱……青竜、白虎、玄武を取り込み、黄龍となったのは理解できる。
なら――
「なんで……他の四神を取り込んだのに、他の守護者は気づかなかったんだろ……」
「真緒?」
「言ってたよね? 守護者は四象のスペアみたいなもんだって。四象のほうに何かあれば、自動的にその権限は守護者に譲渡されるって。なら、なんで守護者たちは今も、守護者のままなの?」




