第117話 白の記憶 その2
「……どういうこと?」
「いま妾が言っておるのは、妾の性格についてじゃ」
「性格? 切除する以前と以後で、性格まで変わったってこと?」
「原因が切除なのか、それとも神魔大戦なのかはわからぬ。じゃが、それ以降の妾は、まったくの逆といっていいほどに、違う」
「今みたいな、ガ……子どもっぽい感じの性格じゃなかったってこと? でもそれって、フェニ子が転生したからじゃないの? ほら、最初に会ったあんたって、何考えてるかわからなかったし」
「それは暴走してたからじゃろうが! ……変質以前の妾は、まさに四神の長らしく人々の幸福と安寧を願っておった。人に寄り添い、共に生きる神としての」
「変質後は?」
「……人を、管理、運営するように……守護する対象から、支配する対象としてみなすようになったのじゃ」
「本当に真逆じゃん」
「そうなんじゃ。白虎も最初は、タチの悪い冗談だと思って流しておったみたいじゃが、だんだんと妾が本気だとわかるようになると、白虎も妾を諫めるようになったのじゃ。しかし――」
「結局、鳳凰は聞く耳を持たなかったと……」
「そうじゃの。その時点で性格も温厚な妾から、苛烈な妾へと変質しておったのじゃ」
フェニ子の口調と同調するように、何もない祠内の空気が波打つ。
「そして、ここからじゃの。四神が四象へと貶められ、魔王ビアーゼボが丹梅国に現れたのは」
「ビアーゼボが四神たちを?」
「いや、そうではない。神魔大戦で敗れたビアーゼボは、天使どもの手によって丹梅国の治世を任されたのじゃ。つまり、妾たちを貶めたのは天使なのじゃ」
「天使がローカルの神様を象徴にまで貶めて、代わりに、魔王に人間の国の治世を任せたってこと? なんで?」
「それは……妾にもわからぬ。じゃが、四神の長として、そのようなことは到底、承服しかねるとしたのじゃ」
「うん、まぁ……何様だって抗議くらいはするよね……」
「いいや、妾は魔王ビアーゼボを討とうと、本気で画策しておったようじゃ」
「えぇ……〝討つ〟って、殺すってことだよね?」
「そうじゃ。亡き者にしようとした」
すごいバイオレンスだけど、普通に考えたら、そうするのもおかしくはないのかな……。
「ちなみに、話し合いはしなかったの?」
「……白虎の記憶を見る限り、しておらんの。そもそも妾だけじゃったようじゃ。魔王ビアーゼボと事を構えようとしていたのは」
「どういうこと?」
「青竜も白虎も玄武も、みな妾を止めようとしておった。じゃが、それでも妾は止まらんかった。魔王ビアーゼボを必ず、この手で亡き者に……と息巻いておった」
「さ、さすが、苛烈に変質しただけはあるね……けど、じゃあ、フェニ子はその戦いに負けて、白雉国へ来たってこと?」
「いいや、そうではない。妾は魔王ビアーゼボとは、ついぞ戦わなかったのじゃ」
「え?」
「妾は……いや、四象連中は魔王ビアーゼボを実際に目の当たりにして、敵わんと悟ったようなのじゃ」
「そ、そんなに……?」
「うむ。白虎も一目見て、逆立ちしても敵わんと思ったようじゃ。その時のビアーゼボに対する畏怖の感情は、間接的に記憶を見ただけの妾すら、身震いするほどじゃ」
どうしよう。もっさんのお使いが急に面倒くさくなってきた。




