第112話 煤けた背中
こうして私たちの血で血を洗う麻雀戦争が始まった――ら、よかったのだが、そんなことはなかった。
紅月は私に遠慮してか、それ以降まったくアガらなくなり、百爪も堅実に私やフェニ子から点数を奪っていき、終いには、マイナスからプラスへと戻った。
途中、百爪にどこからか取り出した麻雀入門書を渡されるも意味はなく、最後の親はまたしてもフェニ子に飛ばされて――
最終局。
「……紅月、いま点数どんな感じ?」
「順位変わらず、真緒が最下位よ」
「ぐっ……ち、違うって。順位はわかってるよ。点数だよ、点数」
「……本当に知りたいの?」
「知りたい」
「そう。現実逃避しないだけ偉いわよ、貴女」
「そ、そんなにひどいんだ……」
「じゃあまず鳥からだけど……176000点」
「なんか増えてない?」
「あれからも地味だけどアガってはいるから。……次は私、38000点」
「お、おう……桁が……」
「それでも3万点後半よ。……普通なら一位か、一位射程圏内だわ」
「普通なら」
「三位は百爪。2000点よ」
「もうマイナスじゃなくなったんだ……」
「貴女が景気よく振り込んでいたから」
「だ、だってよく知らないし……麻雀のルール……」
「……最後に、真緒。−90000点。終わりよ。諦めなさい」
「ご無体な! ここからの打開策を考えようよ!」
「そうね……命だけは見逃してもらえるよう、懇願してみてはどうかしら?」
「い、命……!?」
「これがもし危ない場所の賭けだったら貴女、もう骨すら残ってないわよ」
「ひえっ」
「大丈夫。命までは取らないよ」
百爪は相変わらずニコニコと胡散臭い笑みを浮かべているが、心なしかその笑顔に影が差しているような気がする。
「なら何を取るつもりなんですか……!?」
「それは終わってからのお楽しみだね」
「楽しめるか!」
そんなこんなで、泣いても笑ってもこれで最後の局が始まった。
親が私からフェニ子へと変わり、皆が無心で牌を混ぜる。
あれほど心地よかった音が、今は死神の足音に聞こえて仕方がない。
やがてビクビクしながら牌を積み終えると、隣のフェニ子が慣れた手つきで牌を取った。
心なしか、その顔つきは百戦錬磨の雀士のそれに見えなくもない。
「親愛的、これであンたの命運も決まる。せめてやり残しのないように、悔いがないように打つんだな……」
「キャラ変わってんぞ」




