第109話 国士無双
「麻雀ってさ、人生と似てるよね」
紅月が親になって数巡目。
百爪は牌を切りながら、そんなことを言いだした。
「相手の捨てたモノを見ていると、その人が今、なにを欲しているのか、大体わかるんだ。でも、改めて捨てたモノの中を見てみると、その中に必要なものがあったりする」
「……何が言いたいのかしら?」
これまで百爪のことを歯牙にもかけていなかった紅月が突っかかる。
なにかが彼女に刺さってしまったのかもしれない。
「つまり、オレが言いたいのは――紅月さんがほしい牌って、これなんじゃないかって」
百爪はそう言うと静かに〝中〟の牌を捨てた。
紅月はそれを見て一瞬、眉を動かすと――
「三味線は、ルール違反にはならないのかしら」
「黙って麻雀なんて打っても、楽しくないでしょ」
「楽しくないのは貴方が、でしょう? 私はべつに、沈黙は苦にならないの」
「そっか。でも、口から出た言葉が嘘か真実か――なんてのは、受け取った側が判断するものだと思わない? まあ、三味線を負けた理由に使うのは勝手だけどさ」
「……思わないわね。それじゃ世の中全部、言った者、やった者勝ちになるじゃない。少なくとも発言者は、その発言に責任をもつべきよ」
「世の中って……いやだなあ。麻雀の話だよ、これ」
「私も麻雀の話をしているのだけれど?」
「……そっか。でも結局、最終的に得をするのか、損をするのか、受け取った側次第だとは思わない?」
「しつこいわよ」
「ごめんごめん。それで、この牌どうするの?」
「もちろんいただくわよ。――ロン」
紅月はそう言うと、自身の手牌を私たちに見えるように倒した。
いち、きゅう、いち、きゅう、いち……って、この役見たこと――
「国士。親だから48000ね」
「あちゃあ、こりゃ大きいのに振り込んじゃったみたいだ」
「よく言うわ」
「でも本当に、紅月さんがこれでアガるとは思わなかったよ。てっきりスルーされるかと」
それ以上、紅月は何も言わない。
おそらく麻雀上級者同士の心理戦とか、そんな感じのやり取りなのだろう。
私にはさっぱりだが。
「じゃあこれで紅月さんが57000点。単独トップだね。……さ、気を取り直して次の局へ行こうか」




