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第104話 百爪


 年のころは二十代前半くらいだろうか。

 線の細い体つきに、白い羽織をだらしなく着崩している。

 白金の短髪は、薄い陽光を浴びて砂の色を映していた。

 ふと視線を下げると、腰に鉤爪のついた手甲が一対、なんらかの力でくっついている。


「……だれ?」


 私は悠長に一歩下がって、男に向かって尋ねる。

 男に攻撃の意思があるのなら、既にその行動は終わっているはず。

 つまり危害を加えるつもりはないということだ。……今のところは。

 それに、状況から察するに、白虎となにか関係がありそうだが――


百爪(びゃくそう)

「は?」

「名前だよ。尋ねてきたからさ」


 あ、これは変なやつだ。


「……君たち、観光客……って、感じじゃないよね? 何か用かな?」


 そして間違いない。螭龍さんと同じ祠の守護者だろう。

 にしても、また観光客か。

 ここまでくると、守護者が観光客に甲斐甲斐しく応対するメリットを知りたくなる。


「祠にある宝玉を触りに」

「触る……? 見るだけじゃダメなの?」

「ダメじゃの。妾が玉に触れて、はじめてその記憶を見ることが出来るのじゃ」


 百爪と名乗った男は興味深そうにフェニ子を見ると、やがて口の端をニヤリと上げた。


「……へえ、なんか訳ありみたいだね。ここ最近の変な気配と関係あるのかな」

「変な気配……?」


 螭龍さんもそんなことを言っていた気がする。

 あまり真剣に取り合っていなかったが、私たちには知覚できない何かが起こっているのだろうか。


「感じないの? ……じゃあいいよ、こっちの話。気にしないでいいから」


 そんなことを言われると余計に気にしてしまうのが人情というものだが、関わると面倒くさそうという気持ちのほうが大きい。

 何か起こりそうなら、さっさと祠巡りを終わらせるべきだろう。


「……それで、さっそく玉に触れてもいい? それとも、試練か何かあるの?」

「その口ぶりからすると、もう他の祠にも行ってきたみたいだね」

「え? ま、まあ……」

「参考までに、どの祠で、どんなことをしたか教えてくれるかな?」


 百爪は笑顔を崩さずにそう尋ねてくる。

 隠していても仕方のないことなので、私はこれまでの出来事をかいつまんで話した。

 百爪は私の話を最後まで静かに聞いてくれると、思い出したかのように、指を鳴らした。


「じゃあ、試練は麻雀にしよっか」

「は?」


 私と紅月の声が揃う。


 麻雀? いま麻雀と言ったのか、この男は。

 この期に及んでボードゲームって。

 てっきり戦うのかと思って構えちゃってたけど――


「麻雀だよ、麻雀。……って、あ、そっか。異国の人だからルール知らないか」


 装いを新たにしたはずが、結局バレてしまっている。

 それにしても麻雀かぁ……。


「簡単な役くらいなら……」

「ひと通りの役は頭に入ってはいるけれど……」

まあじゃん(・・・・・)……が、なにかは知らぬが、妾なら余裕じゃ!」


 私たちがそう答えると、百爪は満足げに笑みを浮かべた。


「そっかそっか。じゃあ麻雀で決まりね」

「え、いや、あの……いいの?」


 私としては傷を負うのも、負わせるのも好きじゃないので、こういう平和的な解決方法は嫌ではないけど、それにしたって急すぎる。

 昨日の今日でそれなりに準備はしてきたから、ぶっちゃけ、肩透かしを食らって面食らっている。


「いい……って、なにが? もしかして戦闘でもすると思った?」

「ま、まあ……」


 私はそう頷いて、百爪の腰にある物騒な手甲を見る。


「……ああ、これ? まあ武器には違いないけど、ぶら下げてるからって、絶対に使わなくちゃいけない……なんてことはないでしょ」

「そりゃそうだけど……」


 そのまま私はちらりと紅月を見た。


「……私は、異論はないわよ」

「妾も!」


 フェニ子はともかく、紅月はもう適応しているみたいだ。

 私も少し驚いてしまったけど、やっぱり戦うよりはこっちのほうが断然いい。


 けど、それにしても麻雀か。まさかこっちの世界にもあったなんて。

 たしか三つ続きの数字とか、同じ数字三つのセットを四つ作って、それとは別に、同じ数字を二つだけ揃えればいいんだっけ?


 ……うん、ヤバいか、もしかして。

 フェニ子は期待できそうもないし、ここは紅月に頑張ってもらうしかない。


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