第103話 白虎祠の守護者
瑞饗の西は荒野になっていた。
乾いた風は砂を巻き上げながら舞っており、それが時折口の中に入って不快になる。
「のう、親愛的よ」
「なにフェニ子」
「もう帰らぬか。妾、先ほどから口の中がジャリジャリするのじゃ」
「我慢しなって。あんたのために来てるんだし」
「その妾がもう帰ろうと言うておるのじゃ。意地を張るでない」
「ここまで来て帰れないでしょ。朝からここまで、ずっと歩き通しなんだよ」
「時には徒労に終わるだけでもよいではないか。のちに笑い話にもなろう」
「笑えませんが」
「やれやれ……親愛的は相変わらず強情じゃのう……」
「……貴女たち、鬱陶しいから、気力を著しく削ぐような会話は止めてくれないかしら?」
「ごめんなさい」
「ごめんなさい」
そんなぬるい会話を交えながら、私たちは、荒野にぽつんと佇む石造りの建物を発見した。
間違いない。祠である。
鳳凰の祠ほどではないが、こちらもあまり手入れされていないようだ。
まぁ、こんな土地にあるのだから風化も早そうなのは理解できるが……。
しかし、それにしても、他の二つと比べてすごく浮いている。
いや、外観自体にそれほど差異はないのだが、ロケーションが、まるで巨人か誰かが落していったのかと錯覚するほどに、周りの景色に溶け込んでいない。
「鳥、ここが白虎の祠でいいのよね?」
「鳥と呼ぶな! ……じゃが、うむ。間違いないと思うぞ」
私は周囲を見回すと、私たちの他には誰もいないことを確認する。
今のところ、鳳凰、青竜ときて、守護者がいる祠はひとつだけだった。
確率としては二分の一。
だから、今回はどうだろうと思っていたが――
「いない……のかな?」
「なにがじゃ?」
「ほら、青竜の祠での螭龍さんみたいな、祠を守ってる人だよ」
「おお、そういえば姿が見えんの」
「ね。この祠にもいるかなって思ってたんだけど、あそこだけなのかな……」
「――居留守使ってるんじゃない?」
「居留守? なんのために?」
「居留守を使う目的なんて、ほとんどひとつでしょ」
「私たちに会いたくないから……?」
私がそう答えると、誰も反応してくれない。
たまらず紅月のほうを見てみると――
「や」
なぜか私の背後にひどく軽薄そうな男が、胡散臭い笑みを浮かべて立っていた。
まるで、最初からそこにいたかのように自然に。




