表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

119/148

閑話 丹梅国で衣替え その3


「……私もそれがいい」


 私が紅月の服を指さしながらそう言うと、紅月は即座に首を横に振った。


「貴女とおそろいとか、嫌よ」

「それもう建前(舐められる)じゃなくて、完全に本音(個人の意見)だよね。着たいもの着てみたはいいけど、ちょっと派手だから私にもっと派手な服着せて、上手い具合にバランスとってるだけだよね」

「真緒……貴女、今日はいつになく元気ね」

「誰のせいだよ、私がこんなに元気なのは」

『……うん、これでいいわ。お会計、お願いしてもいいかしら』

『はいよ』

「無視!?」


 驚いたことに、紅月は私に一瞥もくれることなく、丹梅国の言葉で老婆に声をかけた。

 もうこの話は終わってしまったようだ。


『お嬢さんがた、いちおうその服は既製品だから、大きな手直しはできないけど、詰めるくらいならできるよ』

『……そうね、腰のところが少し余っているから、お願いできるかしら』

『はいよ。そっちの派手なお嬢さんはいいのかい?』

『は、はぁ……もういいです……なんでも……』


 私は諦めてそう言うと、紅月と老婆の二人が再び店の奥へと移動した。

 そんな私の視界の端に、店内をうろついているフェニ子が映る。


 少し観察していると、どうやら彼女はあれやこれやと服を試着しているようだった。

 まるで人間の文化を興味深そうに、楽しそうに体験している。

 そんな、とても微笑ましい光景ではあるのだが……なにやら、胸騒ぎがする。


「フェニ子」

「おお、親愛的(ますたあ)か。似合っておるぞ、その服」

「そ、そう……ありがとう……」


 あまり嬉しくはない。

 正直今すぐ、袴とブーツに戻りたいくらいだ。


「妾も衣替えしたいぞ」

「だめ。さっきも言ったでしょ、試着で我慢しな」

「えー!」

「ダメなものはダメ。あとで三色団子買ってあげないよ」

「団子は……我慢するのじゃ」


 あら珍しい。

 あのフェニ子が食よりも衣を優先している。

 恋でも知ったのだろうか。


「……妾だって、親愛的(ますたあ)たちの仲間なのに……」


 なるほど。

 てっきりフェニ子もおしゃれになりたいのかな、なんて思ってたけど、ひとりだけ仲間外れみたいになってしまって、それを不安に思っていただけか。

 普段のフェニ子なら気になってはいないだろうけど、四象関連で〝仲間外れ〟に対して敏感になっているのかもしれない。

 

「ねえ、フェニ子」

「なんじゃ」

「私だってべつに、フェニ子のこと仲間外れにしてるつもりはないからね」


 私がそう言うと、フェニ子は足元に視線を落とした。

 私は続ける。


「服ってほら、高いじゃん。とくにフェニ子が試着してた服とかさ。それに、フェニ子の服はなんか燃えても汚れても、次の瞬間には綺麗になってるし。だから現状、買う必要はないかなって」


 私にはっきりと却下され、フェニ子は頬を膨らませた。

 そんな彼女に対して、私はすかさずフォローを入れる。


「大丈夫。金銭的に余裕ができたら……それか、また外国で浮きそうになったら、買ってあげるから」

「なら、もうこの国を出ぬか?」

「早いよ。まだなにも成しちゃいないよ」

「四象関連のあれこれは、もう飛ばしてもらっても構わんぞ」

「構うよ。構うし、本人にそんなこと言われたら、マジでモチベーション下がるよ」

「……ふむ。まあ、よかろう。じゃが、約束じゃぞ。時が来たら妾に服を買うのじゃ」

「はいはい」


 また死亡フラグみたいなのを立ててるな、なんてぼんやり思っていたら――


「……うん? なんか、焦げ臭くない?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ