閑話 丹梅国で衣替え その3
「……私もそれがいい」
私が紅月の服を指さしながらそう言うと、紅月は即座に首を横に振った。
「貴女とおそろいとか、嫌よ」
「それもう建前じゃなくて、完全に本音だよね。着たいもの着てみたはいいけど、ちょっと派手だから私にもっと派手な服着せて、上手い具合にバランスとってるだけだよね」
「真緒……貴女、今日はいつになく元気ね」
「誰のせいだよ、私がこんなに元気なのは」
『……うん、これでいいわ。お会計、お願いしてもいいかしら』
『はいよ』
「無視!?」
驚いたことに、紅月は私に一瞥もくれることなく、丹梅国の言葉で老婆に声をかけた。
もうこの話は終わってしまったようだ。
『お嬢さんがた、いちおうその服は既製品だから、大きな手直しはできないけど、詰めるくらいならできるよ』
『……そうね、腰のところが少し余っているから、お願いできるかしら』
『はいよ。そっちの派手なお嬢さんはいいのかい?』
『は、はぁ……もういいです……なんでも……』
私は諦めてそう言うと、紅月と老婆の二人が再び店の奥へと移動した。
そんな私の視界の端に、店内をうろついているフェニ子が映る。
少し観察していると、どうやら彼女はあれやこれやと服を試着しているようだった。
まるで人間の文化を興味深そうに、楽しそうに体験している。
そんな、とても微笑ましい光景ではあるのだが……なにやら、胸騒ぎがする。
「フェニ子」
「おお、親愛的か。似合っておるぞ、その服」
「そ、そう……ありがとう……」
あまり嬉しくはない。
正直今すぐ、袴とブーツに戻りたいくらいだ。
「妾も衣替えしたいぞ」
「だめ。さっきも言ったでしょ、試着で我慢しな」
「えー!」
「ダメなものはダメ。あとで三色団子買ってあげないよ」
「団子は……我慢するのじゃ」
あら珍しい。
あのフェニ子が食よりも衣を優先している。
恋でも知ったのだろうか。
「……妾だって、親愛的たちの仲間なのに……」
なるほど。
てっきりフェニ子もおしゃれになりたいのかな、なんて思ってたけど、ひとりだけ仲間外れみたいになってしまって、それを不安に思っていただけか。
普段のフェニ子なら気になってはいないだろうけど、四象関連で〝仲間外れ〟に対して敏感になっているのかもしれない。
「ねえ、フェニ子」
「なんじゃ」
「私だってべつに、フェニ子のこと仲間外れにしてるつもりはないからね」
私がそう言うと、フェニ子は足元に視線を落とした。
私は続ける。
「服ってほら、高いじゃん。とくにフェニ子が試着してた服とかさ。それに、フェニ子の服はなんか燃えても汚れても、次の瞬間には綺麗になってるし。だから現状、買う必要はないかなって」
私にはっきりと却下され、フェニ子は頬を膨らませた。
そんな彼女に対して、私はすかさずフォローを入れる。
「大丈夫。金銭的に余裕ができたら……それか、また外国で浮きそうになったら、買ってあげるから」
「なら、もうこの国を出ぬか?」
「早いよ。まだなにも成しちゃいないよ」
「四象関連のあれこれは、もう飛ばしてもらっても構わんぞ」
「構うよ。構うし、本人にそんなこと言われたら、マジでモチベーション下がるよ」
「……ふむ。まあ、よかろう。じゃが、約束じゃぞ。時が来たら妾に服を買うのじゃ」
「はいはい」
また死亡フラグみたいなのを立ててるな、なんてぼんやり思っていたら――
「……うん? なんか、焦げ臭くない?」




