表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

117/141

閑話 丹梅国で衣替え その1


 瑞饗の通りは、昼下がりの陽射しを反射して淡く霞んでいた。

 石畳の上を香しい煙が流れ、遠くからは鍋の音と、香辛料を煽る匂いが漂ってくる。

 相変わらず人通りも多く、どの露店も盛況だ。

 このまま白虎の祠へと行く前に、どこかで栄養補給でも……と、考えていた矢先――


「……螭龍の件で確信したわ」


 隣を歩いていた紅月が、深刻そうに口を開いた。


「世間に疎そうなあの男が、一瞬で私たちを〝外国人〟であると見抜いた」

「え? ……ああ、たしかにそんなこと言ってたね」

「まったく、なにを悠長に構えているのかしら。これは由々しき事態よ」

「うん、なにが?」

「あの男の言うとおり、私たちの今の服装を見れば、誰だってお上りさんだと思うわ」

「そ、そうかな……普通に外国人だと思われてるんじゃない?」

「いいえ、私たちはいままで散々、瑞饗で飲み食いしてきたけれど、思い返してみれば少し足元を見られていたかもしれない」

「いやいや、どれもこれも十分安かったでしょ。被害妄想激しいって」

「だからここは、念のために服装を変えましょう」

「念ってなに。発生してもない問題を解決しようとするの、やめない?」

「おお……! 心機一転、装いも新たにするわけじゃな! 妾は賛成じゃ!」

「鳥はともかく、貴女や私は未だに白雉国の服なんですもの。お上りさんに見られたって仕方がないわ」


 さらっと自分を除外されたことに腹を立てたのか、フェニ子は頬を膨らませて紅月を睨みつけた。

 にしてもこいつ、人の意見をまったく聞いちゃいないな。

 紅月にしては珍しい言動だが、なにか意図が――


「……もしかしてさ、あんた服買いたいだけなんじゃないの?」


 私がそう指摘すると、彼女の動きがほんの一瞬、ピタリと止まった。


「へえ、なんだ。そういうことなら、言ってくれればよかったのに」

「……なによ」

「丹梅国のことグチグチ言う前に、素直にそう言ってくれればよかったのに」

「は、はあ?」

「あんたこの国に来ても、食べ物とか建物に興味なさそうだったし、というか、今まで何かに執着するとこ見たことなかったからさ、てっきり人形かなにかと思ってたけど、なんだ、おしゃれ好きなんじゃん」

「ち、違うわよ! 言ってるでしょ、舐められるんじゃないかって! だから、服から変えましょうって! すごく論理的じゃない!」

「はいはい。ロンリーロンリー。雷亜ちゃんが服見たいってんなら付き合ってあげるから」

「む、ムカつくわね、その態度……!」


 こいつがここまでわかりやすい反応を返すのは、これから先、おそらくないだろう。

 ならば……というわけでもないが、ここは精いっぱいイジらせてもらおうじゃないか。


「妾だって見たいぞ!」

「まあ……フェニ子は、本当に見るだけね」

「な、なんでじゃ!」

「ほら、紅月の建前が『異国の装いを纏うことで、現地人に舐められないようにする』……だからさ、フェニ子はもうすでに丹梅国の子どもっぽい見た目してるし、というか馴染んじゃってるから、着替える必要ないでしょ?」

「じゃが……」

「あとで肉団子奢ってあげるから」

「ご、ごま……! ……じゃ」


 とはいえ、紅月の提案もわからなくはない。

 今のところ、丹梅国に来てから差別のようなものを受けてはいないが、異国の装いだからか、たしかに好奇な視線はよく感じる。

 だから、これからも何も起こらない……とは決して言い切れない。

 それなら、せっかく丹梅国の言葉も話せるし、外見だけでも取り繕おうとするのはわかる。すごくわかる。けど――


「どうしてこうなった……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ