第102話 よくないもの
私たちが祠の外へと出ると、辺りで燻っていた火も完全に消え、湖面はゆるく波立っていた。
相変わらず、一か所のみが焦土化しているが、ある程度持ち直してきている……と思いたい。
そんな罪悪感を抱いた私を、祠の入口の影にいた螭龍さんが見る。
「……用は済んだか」
「まぁ……はい……」
どうしよう。
あんなに綺麗な草原をこんなにした責任とか取らされたら……。
もしまた戦うことになったら、今度こそ勝てるビジョンが見えない。
結局、フェニ子の捨て身の爆発でも、大したダメージは与えられなかったし――
「……おい」
「は、はい!」
「おぬしらは、次はどこへ行くつもりだ」
「え? ええっと……他の祠……ですかね」
「そうか」
それだけ。
なんか含みを持たせている気も……しなくもない。
どうしようか。
ここは私からまた声をかけるべきか、それとも――
いや~、つつきたくないなぁ、この藪。高確率で蛇出てきそうだし。
「……な、なにか?」
でも結局、こうやって訊いてしまうのであった。
「空が――」
「空……?」
螭龍さんがそう言って空を見上げる。
私もつられて見てみるが、特になんてことはない空だった。
あんな火災旋風が起きたというのに、空は気持ちが悪いほどの快晴だった。
「空が、どうかしたんですか?」
「感じぬか」
「太陽を?」
「なにか、よくない気配だ」
「よくない気配……?」
そんなことを言われ、私はもう一度空を見上げるが、相変わらずなにも感じない。
私の目にはなんの異常も映らない。
「近頃、青竜も我の前に滅多に姿を現さなくなった」
「なにかあったんですか?」
「……もしまだ他の祠を周るのなら、急いだほうがよいかもしれぬな」
螭龍さんはそう言って背を向けると、そのまま歩き出し――消えてしまった。
この空間から彼の気配がなくなり、背後の、祠の扉がぱたりと閉じる。
なんだったんだ、一体。けど――
「……螭龍さん、悪いひとじゃなかったね」
「嫌なヤツではあったがの」
「まぁ……」
「なにせ、妾を投げて爆弾のように扱った親愛的を褒めておったからのう。あれは疯子じゃ」
「ごめんって。……またなんか奢ってあげるからさ」
「ご、ゴマ団子を所望する!」
その様子に紅月が笑うでもなく、肩をすくめる。
「……それで、次はどうするの、真緒?」
「うーん、南、東と来たから……」
「じゃあ反時計回りに、次は北かしら?」
「ううん、西に行こう」
「……なぜ?」
「いやあ、こういうのって、大体最後に北じゃない?」
「知らないわよ。でも、貴女が言うのならそれでいいけど」




