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第92話 スネカジラー真緒


 フェニ子は腕を組み、胸を張る。

 ほんの少し癇に障る言い方だが、嘘を言っていないのはわかる。


「……ひとつ、いいかしら?」

「なんじゃ紅月」

「あまり丹梅国の文化に詳しくないから貴女に尋ねるんだけど、祠というものはみんなこうなのかしら?」

「こう……とは?」

「白雉国の祠はもっと厳かというか、お供え物やお札が貼ってあったり、しめ縄や鈴があったり、とにかくこんな……人ひとりが暮らしているような雰囲気ではないの」

「ふむ、なるほどのう。おぬしの疑問はわかった。じゃが、安心するのじゃ。これは普通ではない」


 まあ、さすがにそうか。

 言葉や文化が違っていたとしても、ある一定の基準みたいなものはあるよね。


「なぜなら、妾もちょっと変だと思っておるからじゃ」

「そ、そっか……」


 根拠薄いな。


「ふあぁぁ……」


 なんてことを考えていると、フェニ子が大きく口を開けて欠伸をした。

 私もそれにつられるように、軽く息を吸い込みつつ伸びをする。


 そういえば、今日はずっと朝から動きっぱなしだった。

 獬豸の角拾いに、祠の探索。

 フェニ子なんてお腹貫かれてるし。


「……今日は、ここまでにしましょうか」


 私の心情を知ってか知らずか、紅月がふっと口元を緩めながらそんなことを言ってくる。


「鳥が話しているのは、あくまで記憶の断片にすぎないわ。事実かどうかも、まだ確証はない。……それに、特に急ぐ旅でもないんだし、また明日、ゆっくり祠を周りましょう」


 紅月のその提案に、一気に肩の力が抜けていく。


「うん、だね。真偽はおいといて、そろそろ整理しないと、頭がパンクしそう」

「して、寝床はどうするのじゃ?」


 寝床。

 昨晩はそのまま梁さんにお世話になっちゃったけど、さすがに甘えすぎな気はする。

 治療費の対価である角の件だって、結局、私たちのためにやってくれたことだし。

 こんなときに私が銀級以上だったら、宿代も節約しつつ、いくらか梁さんに渡すこともできるんだろうけど――


「ねえ、紅月。あんた元・金級だよね?」

「……やらないわよ」

「まだ何も言ってないじゃん」

「わかるわよ。どうせ、元・金級名義で宿取れないかって訊くつもりでしょ」

「無理なの?」

「無理よ。それに、そんなことをしたら宿代以上に罰金を取られるうえに、最悪貴女の冒険者証も剥奪ね」

「そっかぁ……紅月はどうだと思う?」

「梁さんのところでいいと思うわ」

「うーん、でもさぁ……」

「貴女の言いたいことはわかるわ。けど、梁さんがああ言ってくれているのだし、厚意に甘えるのもまた気遣いよ」

「そんなもんかなぁ……」

「それに、どちらにせよ、また彼とは会う必要があるわ」

「祠の場所だよね。……梁さんの話だと、瑞饗で祠の場所知ってる人、めっちゃ少なそうだし」

「なにより宿代も浮くわ」

「まあ、それが一番の理由だよね」


 ツチノ……黒舌草(こくぜつそう)の件で金銭面にそこそこの余裕が出来たとはいえ、お金を節約できるなら節約したいというのが人情というものだろう。


「どうしてもというのなら、気持ちだけでも宿代を払えばいいじゃない」

「受け取ってくれるかな」

「受け取らないでしょうね。……けど、貴女抜けてるし、たまたまお金を置き忘れてしまうかもしれないでしょう?」


 紅月はそう冗談ぽく言ってみせた。


「……まあ、それもそっか。じゃあ、決まり。梁さんの診療所に戻ろう」

「了解」

「うむ、帰るのじゃー」


 気の抜けた声を上げながら、フェニ子は先に歩き出す。

 その小さな背中を追いながら、私は思った。

 四象の祠を巡れば、何が見えてくるのだろうかと。

 フェニ子の記憶か、それとも、もっと別の何かか。


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