第91話 思い出した断片
「……ちょっと待って」
「なんじゃ、親愛的」
「ええっと、まず確認させてほしいんだけど、それってひょっとして、またギャグで言ってる?」
「ぎゃぐ?」
「いやだって、なんか今までずっと、肩透かしボケみたいなこと言ってたじゃん。期待させておいて落とす、みたいな。今回のもそれなのかなって」
「な、なんなんじゃ、ギャグとかボケとか……妾はただ普通に感想を述べておっただけなんじゃが……」
フェニ子が呆れたようにそう言う。
紅月もなぜかため息をついているが、あんたは明らかにこっち側だったろ。
「そ、そっか、ごめん。続けて」
「うむ、妾は、この国を追われ白雉国へと逃げ延びたんじゃった」
「追われたって……誰に? 人間?」
「それはちがうのじゃ」
私と紅月は顔を見合わせる。
「となると――」
「他の四象たち……ってこと?」
「どうじゃろうな」
「どうじゃろうなって、そこはまだ思い出せてないんだ?」
「ここでは言いづらいことかもしれないわね」
「……フェニ子、あんたなにしたの?」
「それは……わからぬ」
フェニ子が首を横に振る。
「わからないって……」
「ここで少し整理してみましょう。四象は元は四神と呼ばれていて、ようするに四柱で、ひとつの神みたいな存在だったわけよね?」
「じゃの」
「なら、わざわざその一柱である鳥を追い出すって、よほどの理由があったのではないかしら?」
「妾もそう思う」
「……なんで他人事?」
「知らぬからじゃ。この記憶は今、玉に触れて思い出したものじゃからの」
「要するに、記憶というよりは、本を読んで得た知識みたいなもので、実感はこもってない……みたいな感じかしら」
「おお、それじゃ。紅月よ、その例えが一番近いぞ」
「なるほどね。丹梅国から追い出されて、白雉国へたどり着いたことは思い出したけど、他の四象がなんでそんなことをしたのか、までは覚えてないと」
「そうじゃの。妾たちの関係は良好なはずじゃった。しかし……」
そこまで言ってフェニ子は言い淀む。
信じられないとでも言いたげな表情で俯く。
「……他にはなにか思い出したこととかないの?」
「あるぞ。妾は四象の頭児だったのじゃ」
「フェニ子がリーダー?」
一瞬、まさかと否定しそうになってしまったが、燦花でのフェニ子の姿が脳裏をよぎる。
今の幼女の姿ならいざ知らず、たしかにあの姿の――鳳凰の姿の彼女なら説得力はある。
「……でも、それならなおさらだよね。四象のうちの一柱で、リーダーでもあるフェニ子を追い出すなんて――」
「真緒」
「なに、紅月」
「もしかすると、他の三つの祠をまわることで、鳥は記憶を取り戻せるんじゃないかしら?」
「記憶……あ、そっか。思い出すトリガーが宝玉に触れることなんだとしたら、他の祠にも祀られてる玉に触れていけば……」
紅月がゆっくりとうなずく。
「なら、まずここで出来ることはやっておかないとね。……フェニ子、他になにか思い出したことはある?」
「うむ。ない」




