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第89話 四次元祠


 瑞饗の賑やかな通りを抜け、ひたすら南へと歩を進める。

 当然、祠に向かうにつれて人影は少なくなり、喧騒も遠のいてゆく。

 その代わりというわけではないが、竹林のざわめきと鳥の声が耳を満たす。

 やがて石畳も途切れ、踏み分け道を進むと、鬱蒼とした木々の奥に小さな祠が姿を現した。


 苔むした屋根は崩れかけ、木の柱には深く、一体化するように蔦が絡みついている。

 まるで森そのものに呑み込まれ、自然の一部と化してしまったように見える。

 瓦は落ち、壁の隙間からは私たちの気配を察知した小鳥が飛び立つ。


 さすがはうん百年も放置された祠だ。

 もはやそれは遺跡と呼んでもいいほどに老朽化が進んでいる。


「どうよ、フェニ子。実家に帰ってきた感想は」

「……これが、妾の(じっか)なのじゃ?」


 フェニ子は半信半疑といった様子で首をかしげる。

 この時点で少し期待はしていたが、やはり外見を見ただけでは思い出すはずもないか。

 そもそもここまで朽ちてたら、わからなくなるのも無理はない。


「ま、ここからじゃなんだし、ぐるっと一周してみる?」

「いや、親愛的(ますたあ)よ。暫し待つがよい」


 フェニ子はそう言って、自身のこめかみあたりを指でおさえだした。


「――はッ! こ、これは……!」

「なにか思い出したの?」

「すごく、こじんまりとした祠なんじゃな!」


 自然と紅月と目が合う。

 どうやら彼女にツッコミの意思はないようだ。

 とはいえ、こんな雑なボケに私がツッコむのも癪なので、聞こえなかったことにしておこう。


「……まあ、あまり外見にピンときていない感じだし、ここは早速中に入ってみたらどうかしら?」

「それもそうだね」


 私はすでにひび割れて、そこから中が見えている(はいきょ)の扉に手をかけ……ようとして止まった。


「……どうかした?」

「これ扉っていうか、建物に触った瞬間、障られたりしないよね?」

「小賢しいわよ、東雲真緒」


 紅月からやや厳しめのツッコミが飛んでくる。


「いやいや! フェニ子じゃないんだから、こんな時にふざけないって!」

「……梁さんがとくに何も言ってこなかったんだから、大丈夫よ、きっと」

「急に信用するね。あんなにお茶飲むの渋ってたのに」

「あそこまでしてもらって疑うのは、もはや失礼よ」

「ん、まぁ、それもそうだね」

「怖かったのなら妾が開けてやろうか、親愛的(ますたあ)?」

「いや、大丈夫。戦闘中はいつも後方でふんぞり返ってるだけだし、こういうのは私がやるよ」

「貴女……」


 私は誰も救われない自虐を挟むと、改めて祠の扉に手をかけた。

 木製の扉は長年雨風に晒されているにも拘わらず、しっかりとした造りになっている。

 湿気もほとんどなく、手に返ってくる感触も不快なものはない。

 しかし――


「なに……これ……」

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